岸田首相(中央右)は首相公邸でドイツのショルツ首相(同左)と会談し、経済安全保障での連携の強化を確認した/3月18日
岸田首相(中央右)は首相公邸でドイツのショルツ首相(同左)と会談し、経済安全保障での連携の強化を確認した/3月18日

 岸田文雄首相はキーウ電撃訪問など外交で政権浮揚を狙ったが、効果は一時的だという。年末には増税問題の対応に迫られる。難題の打開策は衆院解散になるかもしれない。AERA 2023年4月3日号の記事を紹介する。

【図】岸田内閣の支持率はこちら

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 岸田文雄首相は得意の外交で政権浮揚を狙った。3月初めから秘密裏にウクライナ訪問を計画し、実現にこぎつけた。ゼレンスキー大統領との首脳会談では、追加の経済支援を表明し、広島サミットへのリモート参加も取り付けた。それに先駆けて、韓国の尹大統領と会談した後、ドイツのショルツ首相を迎えて首脳会談。ウクライナ支援を進めることを確認した。さらに岸田氏はインドに飛んで、モディ首相と会談、インド太平洋地域への経済支援などを打ち出した。広島サミットに向けた準備を着々と進めている。

 もっとも、一連の外交が岸田政権の浮揚につながるかというとそうでもない。「外交は一時的な人気を博することはあるが、経済や社会保障と違って国民の安定的な支持が広がるわけではない」(外務事務次官OB)というのが実情だ。

 岸田首相も外交がすぐに政権浮揚につながらないことは承知している。そこで目を付けているのが、国民の関心が高い子育て政策だ。「異次元の少子化対策」を突然表明し、子育て予算の倍増や男性の育児休暇取得の大幅増加などを次々と打ち出している。だが、肝心の財源は示されていない。4月の統一地方選と衆参両院5選挙区の補欠選挙に向けて、政権の求心力を高めようという狙いは明らかだ。

 財源確保が難しい防衛、子育て、医療という「3点セット」は難題だ。防衛費は過去5年間の27兆円から今後5年間は43兆円に増額する。その財源となる法人、所得、たばこ3税の増税は今年末までに確定させることになっているが、自民党内の抵抗も強く、波乱含みだ。子育て予算を倍増させる財源も明確になっていない。新型コロナウイルスの感染拡大では医療機関への助成やワクチン接種費用などが国費で支出され、総額90兆円に膨らんでいる。大半が赤字国債でまかなわれているが、その返済のめどはたっていない。急速に進む高齢化に伴い、医療費の国庫負担増は加速していく。

AERA 2023年4月3日号より
AERA 2023年4月3日号より

 今年末の24年度予算編成では「財源3点セット」に対応するための増税問題が浮上するだろう。所得税や法人税だけで済むのか、消費税にまで踏み込むのか。自民党内を二分する論争になる可能性がある。

 年末の増税論議に先駆けて、今秋に景気対策のための大型補正予算を成立させ、衆院の解散・総選挙に打って出る。そんな局面打開策が、岸田首相の頭の片隅にあるはずだ。(政治ジャーナリスト・星浩)

AERA 2023年4月3日号より抜粋