バフムートで戦死した息子の墓の前で涙を流す77歳の女性(AP/アフロ)
バフムートで戦死した息子の墓の前で涙を流す77歳の女性(AP/アフロ)

■「成功のレッスン」さらなる世界の分断を生む

 危惧するのは今回の侵攻への対応がEUにとっての「成功のレッスン」となる一方、その「成功」がさらなる世界の分断を生むことです。たとえば「ロシアの天然ガスにばかり頼っていてはだめだ」となっても、代替資源が必要です。天然ガスの価格は上昇しています。また、脱炭素化はもちろん支持しますが、その資源確保のためにグローバルサウス(主に南半球にある南アメリカやアフリカなどの新興国や発展途上国)の土地からレアメタルやバイオ燃料用の土地を先進国が収奪していく。

 私が気になっているのは、グローバルサウスが私たちグローバルノース(主に北半球にある先進国)に向ける「冷ややかな視線」です。

 今回の侵攻については、東側に悪いプーチンがいて、西側の民主主義の国々がウクライナというかわいそうな小国を守るために戦っているというストーリーが存在する一方で、それがどれほど世界の国々で共有されているかは疑問です。中南米や中東、アフリカなどには、西側の言う自由や民主主義なんてそんなにいいものかと冷ややかに見ている国も多い。たとえば、西側はウクライナからの難民を受け入れたけれど、戦禍のシリアにもしたか。米国だって、南米や中東に散々介入したり、国境線を好き勝手に引き直したりしてきたではないか。結局、都合のいい時だけ、「民主主義」や「人権」を掲げるダブルスタンダードじゃないかと。

国谷:欧米が掲げる「正義」に冷ややかなまなざしがあるということですね。

斎藤:この問題は西側が旗を振る「脱炭素」においても言えることです。グローバルサウスからすれば、いままでさんざん好き勝手にCO2(二酸化炭素)を排出しておいて何言ってるんだという話になります。それに、脱炭素という名の下で、資源やエネルギーを先進国が買い漁っている。それでどうやって、貧困や飢餓に喘(あえ)ぐ途上国が脱炭素化をできるのか。彼らだって生きていくために、ロシアとの関係を嫌でも保持せざるをえない。

 本来は、自分たちが絶対に正しいと思っている価値観は、どれほど普遍的なのかを自省すべき時でしょう。そうせずに、「国連決議を棄権するなんて民主主義がわかってない」「脱炭素に賛成しない国々は愚かだ」という上から目線でいることが、分断を深めています。こんなことが続けば、(2015年に採択されたパリ協定で「気温上昇を2度よりかなり低くし、できれば1.5度に抑える」という目標を掲げた)脱炭素も平和も世界規模で達成することはできません。

国谷:30年までに1.5度目標を達成しようとすると、いまから毎年7~8%の脱炭素化を進めていかないといけない。パンデミックでロックダウンが行われた年でも6%程度。加えてウクライナ戦争で消費される弾薬や燃料から排出されるCO2の量も莫大です。このままでは1.5度未満に抑えることは厳しいと言わざるを得ません。

(構成/編集部・小長光哲郎)

AERA 2023年3月20日号より抜粋