北朝鮮の金正恩総書記と娘、キム・ジュエ氏を映すソウル駅のテレビ画面=2月18日(AP/アフロ)
北朝鮮の金正恩総書記と娘、キム・ジュエ氏を映すソウル駅のテレビ画面=2月18日(AP/アフロ)

 北朝鮮の金正恩総書記の娘の姿がまた披露された。7回目の公開で、識者は「理解に苦しむ現象」とする。その背景は。AERA 2023年3月13日号より紹介する。

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 北朝鮮がまた、金正恩総書記の娘、キム・ジュエ氏を公開した。2月25日、平壌の住宅建設現場の着工式に父親と共に出席した。昨年11月のミサイル試射の際に初めて登場して以来、公開は7度目だ。2月末、ソウルで面会した韓国国家安保戦略研究院の高英煥・元副院長は「理解に苦しむ現象だ」と語った。

■相次ぐ「常識外れ」

 高氏は元北朝鮮外交官で金日成主席のフランス語通訳も務めた、韓国でも一、二を争う北朝鮮専門家だ。高氏の目からみて、北朝鮮では最近、「常識外れ」の行動が相次いでいる。

 その一つがジュエ氏を巡る北朝鮮の扱いだ。ジュエ氏の年齢は10歳程度で、公職にも就いていない。ところが、2月8日の軍事パレードでは正恩氏と同じ主席壇に登場し、父親の頬をなで回した。高氏は「神と同じ神聖不可侵の存在である最高指導者に触るなんて、北朝鮮の人間からすれば考えられない」と語る。高氏はかつて、金日成氏の娘、キム・ギョンジン氏が父の頬に触る場面を目撃した。その場面は公式映像からは削除されたという。

 ただ、ジュエ氏が後継者というわけでもなさそうだ。北朝鮮の公式メディアは「愛するお子さま」「尊敬するお子さま」という表現を使い、ジュエ氏の名前を公表していない。高氏は背景に、金正恩氏の妻、李雪主氏と正恩氏の実妹、金与正氏との間に葛藤があったのではないかと推測する。

 北朝鮮メディアは過去、金正恩氏の子どもたちを公開してこなかった。「触れることも許されない」側近たちが、「指導者の子どもたちを公開しましょう」とは言えない。高氏は「公開を決められるのは、正恩氏か李雪主氏しかいない」と指摘する。

 そして、李雪主氏は金与正氏の動向に懸念を持っていたのではないかと推測する。現在、ロイヤルファミリーのなかで公職に就いているのは正恩氏と与正氏の2人だけだ。与正氏は朝鮮労働党副部長の要職にあり、部下も大勢いる。李雪主氏が「早めに手を打たないと、自分や自分の子どもたちが権力闘争で退けられるかもしれない」と心配したというわけだ。

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