子どもを持ちたい人たちの選択肢として議論されている代理出産。国内でも法制化の検討が進むが、決して忘れてはいけない視点がある。AERA 2023年2月13日号の記事を紹介する。

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――受精卵を第三者の子宮に移植する「代理出産」。国内では認められていない一方、子どもを持ちたい人の選択肢として、海外で実施されるケースは相当数ある。法制化の議論も起きる中、考えるべき課題について、作家の北原みのりさんが、2007年から代理出産について研究する柳原良江さんの視点を聞いた。

北原みのり(以下、北原):今、代理出産を認める法案が浮上しています。厳しい条件を設けて、子宮移植が実用化するまでの容認案とのことです。私自身も、まだよく分からないことがあるので、柳原さんにいろいろと教えていただけたらと思います。

柳原良江(以下、柳原):女性が契約により子を妊娠・出産し、引き渡す行為は長い歴史を持ちますが、近ごろ一般的に議論される「代理出産」は、1976年にアメリカの弁護士が発明した契約妊娠サービスから始まりました。当初は人工授精を利用していましたが、のちに体外受精を用いて、依頼者自身の卵子や、事前に調達したドナー卵子で妊娠してもらう形が普及しました。これらの代理出産は、営利目的かどうかに焦点をあて、依頼者が代理母に報酬を支払う「商業代理出産」と、代理母の善意から無償で実施される「無償代理出産」に分けられます。

■無償でもビジネス化

北原:もし日本でこの法案が通るとしたら、どのような形だと考えられていますか?

柳原:おそらく無償で、なおかつ条件が付けられた代理出産となるのではないでしょうか。ただ、これまでの事例から考えて、無償を掲げていても、ビジネスとして普及することは想像に難くありません。

北原:これまで代理出産の依頼者の話は聞いても、依頼された側の話はあまり語られることがなかったんですよね。柳原さんが監訳した『こわれた絆 代理母は語る』で、代理母側の状況がようやく見えてきました。家族が壊れた人や、出産で命を落としかけた人、そして契約と分かっていても、妊娠中には気持ちも揺らぎ、子どもと離れがたくなる人もいる。多くの問題があることがはっきりしました。

柳原:依頼者が障害のある子どもを引き取らず、連絡を絶つケースもあります。障害のある子を放棄しながら、健常な子どもは欲しいので、また別の代理母に依頼するということも行われます。放棄された子は代理母が育てることもありますが、代理母が貧しく子育ての余裕がない場合など、施設に入れられることも少なくありません。

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