柳沢英太(やなぎさわ・えいた)/1980年生まれ。2005年入社。半導体事業の企画管理に従事。米国ではイメージセンサーの新規ビジネスを担当。現在、システムソリューション事業部事業部長(photo 写真映像部・加藤夏子)
柳沢英太(やなぎさわ・えいた)/1980年生まれ。2005年入社。半導体事業の企画管理に従事。米国ではイメージセンサーの新規ビジネスを担当。現在、システムソリューション事業部事業部長(photo 写真映像部・加藤夏子)

 ソニーグループが営業利益1兆2023億円(2022年3月期決算)をたたき出した。営業利益1兆円超えは国内製造業ではトヨタ自動車に次ぐ2社目だ。家電の不振から復活した原動力は、そこで働く「ソニーな人たち」だ。

【写真】10円玉と比べると…目下、期待を集めているイメージセンサーがこちら

 短期集中連載の第7回は、ソニーセミコンダクタソリューションズのシステムソリューション事業部長の柳沢英太さん(42)。かつて「お荷物」とされた半導体事業の躍進を支えた人材だ。鉄人と呼ばれる働きぶりの原点には、ある理由があった。彼の中ではつねに情熱が沸騰している。AERA 2023年1月16日号の記事を紹介する。(前後編の後編)

*  *  *

 イメージング&センシング・ソリューション事業は、社員数1万8100人(22年4月時点)、事業拠点数13カ国32拠点(同年9月時点)を数える。世界中に社員が散らばる環境で、柳沢は相変わらず、寝る暇もなく、世界を飛び回っている。彼の中で、つねにマグマが沸騰している。

「アメリカ時代は、人生に二度とこんなにつらい時期はないと思いましたが、正直、いまのほうがつらいです」

 といいながら、“鉄人”は余裕の笑いを見せる。

■仕事に突き進む理由

 彼はなぜ、自分を追い込むように仕事に突き進むのか。そこには、隠されたエピソードがある。このことは、これまで社内でもほとんど語っていない……と一瞬、躊躇しながら重い口を開いた。

 ──母親を早くに亡くした。彼の記憶に母親の姿はなかった。中学生になったある日、姉が一本のビデオを見せてくれた。家庭用のソニーベータビデオカメラで撮影された、姉の運動会のテープだった。ソニー製テレビの画面に、姉と母親が走り回る姿が映しだされているではないか。彼はこのとき、初めて母親が生き生きと動いている姿を見た。衝撃が走った。

 と同時に、「感動」が彼の胸に押し寄せた。画面に映し出された母親の姿は、強烈な体験となって心の奥に染みわたった。思いがけないプレゼントをもらったようなものだ。その「感動」が、柳沢を突き動かす起点となった。それ以来、彼はソニーに“恩返し”をするつもりで、働き続けているのだ。

次のページ