ソニーグループが営業利益1兆2023億円(2022年3月期決算)をたたき出した。営業利益1兆円超えは国内製造業ではトヨタ自動車に次ぐ2社目だ。家電の不振から復活した原動力は、そこで働く「ソニーな人たち」だ。
【写真】10円玉と比べると…目下、期待を集めているイメージセンサーがこちら
短期集中連載の第7回は、ソニーセミコンダクタソリューションズのシステムソリューション事業部長の柳沢英太さん(42)。かつて「お荷物」とされた半導体事業の躍進を支えた人材だ。鉄人と呼ばれる働きぶりの原点には、ある理由があった。彼の中ではつねに情熱が沸騰している。AERA 2023年1月16日号の記事を紹介する。(前後編の後編)
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イメージング&センシング・ソリューション事業は、社員数1万8100人(22年4月時点)、事業拠点数13カ国32拠点(同年9月時点)を数える。世界中に社員が散らばる環境で、柳沢は相変わらず、寝る暇もなく、世界を飛び回っている。彼の中で、つねにマグマが沸騰している。
「アメリカ時代は、人生に二度とこんなにつらい時期はないと思いましたが、正直、いまのほうがつらいです」
といいながら、“鉄人”は余裕の笑いを見せる。
■仕事に突き進む理由
彼はなぜ、自分を追い込むように仕事に突き進むのか。そこには、隠されたエピソードがある。このことは、これまで社内でもほとんど語っていない……と一瞬、躊躇しながら重い口を開いた。
──母親を早くに亡くした。彼の記憶に母親の姿はなかった。中学生になったある日、姉が一本のビデオを見せてくれた。家庭用のソニーベータビデオカメラで撮影された、姉の運動会のテープだった。ソニー製テレビの画面に、姉と母親が走り回る姿が映しだされているではないか。彼はこのとき、初めて母親が生き生きと動いている姿を見た。衝撃が走った。
と同時に、「感動」が彼の胸に押し寄せた。画面に映し出された母親の姿は、強烈な体験となって心の奥に染みわたった。思いがけないプレゼントをもらったようなものだ。その「感動」が、柳沢を突き動かす起点となった。それ以来、彼はソニーに“恩返し”をするつもりで、働き続けているのだ。