ソニーグループが営業利益1兆2023億円(2022年3月期決算)をたたき出した。営業利益1兆円超えは国内製造業ではトヨタ自動車に次ぐ2社目だ。家電の不振から復活した原動力は、そこで働く「ソニーな人たち」だ。
【写真】工場を視察するソニーの盛田昭夫社長(1972年撮影)
短期集中連載の第5回は、ソニー人事総務部門副部門長の栗田麻子さん(46)だ。人生の転機にどう向き合うか。会社にできることは何か。ソニーらしい人事によるキャリアを、自ら積み上げてきた人事担当者だ。2022年12月19日号の記事を紹介する。(前後編の後編)
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ソニーの人事部は、直接人を動かしたり、評価したりすることは行わない。社員のキャリアは各事業で上司と本人が決め、人事部はそれに対して専門的なアドバイスや支援を行う。
支援の一つにシンフォニー・プランがある。それまで個々に行われていたライフステージごとの施策を、2020年にまとめて整理した。不妊治療、育児、介護、病気の際の休暇制度のほか、短時間、フレックス、フレキシブルワークといった勤務制度を整え、支援金の支給や休職の選択肢を用意する。社員がライフイベントに直面した際、仕事を継続し、力を発揮できるよう支援するのだ。
■実際使える制度か
実はこうした制度を整えることは難しくない。制度のある企業はいくらでもある。ソニーが違うのは、これらの制度を誰もが気兼ねや忖度なく使えるようにすることだ。加えて、個人の力を発揮させるために本当に難しいのは、一人ひとりの社員に寄り添うことである。
ソニーの人事を、栗田は「血が通った人事」と表現する。
「人事部は、会社のため、個人のために、一人ひとりのキャリアを一緒に考えるのが仕事です。創業者の盛田(昭夫)さんは、その人にとってソニーがいいならソニーにいてほしい。そうでないならソニーでなくてもいい、といっていたそうです」
企業としては理想の姿だろうが、実際に実行できる人事部が、どれだけあるだろうか。ソニーの場合、こうした取り組みが実際に社員をエンカレッジし、モチベーションを高め、彼らの活力、ひいては企業全体のパワーに直結している。
「私の場合、子会社から本社への転籍にしても、子連れでの海外赴任にしても、自分でも気づいていなかった“制限”や“制約”を取り除いて、力を引き出してもらったという感じがすごくあるんです。それはソニーらしいところだと思っています」