サステナブル・ラボ CSO カルソ玲美さん/東京工業大学大学院修了後、フィリピン駐在、外務省やJICAを経て創業期の同社に参画(写真:本人提供)
サステナブル・ラボ CSO カルソ玲美さん/東京工業大学大学院修了後、フィリピン駐在、外務省やJICAを経て創業期の同社に参画(写真:本人提供)

 強さに関する項目はスムーズに決まったが、やさしさを項目に落とし込んでいく作業には難しさが伴った。やさしさの考え方が人それぞれ異なり、それが甘えや緩さにつながってしまうのは望ましくないからだ。

 項目に共通するのはいずれも「自分だけよければいい」という考え方とは正反対だ。事業の場合も同じことで、「自分たちだけが儲かればいい」というやり方には昨今、投資家からも消費者からも厳しい目が向けられる。

■新たな自分発見する

 さらに、時間軸を長く取ること、ステークホルダーの概念を広く持つことがポイントだとカルソさんは強調する。その瞬間はやさしさのように見えても、長く広い視点で考えた時にどこかに歪みが出てくるのなら、本当のやさしさではない。

「例えば、会社で高い業績を上げていても家庭を放ったらかしにしている状態なら、家庭内の他の誰かにしわ寄せがいく可能性があります。家族の応援なしにはサステナブルに働けません。目の前で起きていることだけではなく、それがどう波及するのか、裏で何が起こるのかを考えてもらうようにしています」

 カルソさん自身、2歳の子どもを育てている最中でもある。

「残業ができない時もあるし、子どもの体調不良で休まなければならない時もあります。長期的に家族や社会にプラスになることが大切、と言語化したことで、“今は目の前の家族と向き合って、回復したら業務を一生懸命やろう”と思うことができ、会社へのコミットメントも高まりました」

 さらに同社では「Membership」を重視するカルチャーを醸成するため、「照らしんぐ」という独自の取り組みを続けている。サービス名である「TERRAST」には「環境・社会に良いことをしている企業を“照らす”」の意味合いが含まれているが、社内のメンバーも積極的に「照らして」いこうというのがこの取り組みだ。

 具体的には毎週1人メンバーを決めて、その人のいいところや感謝のメッセージをスプレッドシート上に寄せ書きする。

「褒められたらうれしいし、会社に貢献できている、みんなが見てくれているんだなということがわかり、新たな自分を発見する機会になります」

 リモートワークで他の人の動きが見えづらかったり、新しく入社するメンバーが急激に増えたりしている状況の中で、メンバーの理解を深める手助けにもなっているという。

 こうした取り組みの結果として、同社の従業員調査ではエンゲージメントが高い状態が維持できていて、人材募集に1千人を超える応募があるなど、採用力についてもカルソさんは手応えを感じている。(編集部・高橋有紀)

AERA 2022年11月7日号より抜粋