仙台で暮らした学生時代に東日本大震災で被災。サバイバーズ・ギルトが起業のエネルギーになる(写真=工藤隆太郎)
仙台で暮らした学生時代に東日本大震災で被災。サバイバーズ・ギルトが起業のエネルギーになる(写真=工藤隆太郎)

 10X(テンエックス)代表取締役CEO、矢本真丈。コロナ禍でスーパーなどのECサイトの需要が増えたが、10Xは小売業のネットスーパーの立ち上げに寄与し、注目を集めている。その10Xを率いるのが矢本真丈。3・11で被災し、世の中の役に立ちたいと、最速で持てるものを身につけ起業した。仕事は大事だが、何よりも家族を思う。社員にも育休がしっかり取れるシステムを作った。家庭と仕事は分けて考えない。

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にぎやかな声で出迎えられた。水鉄砲を持った2人の男の子は玄関先でおどけてみせ、その後ろで若い夫婦が穏やかにほほ笑む。

 新大阪から地下鉄で20分の北摂エリア。駅周辺にはショッピングモールや高層マンションが立ち並び、緑豊かな公園があちこちに点在。遠くには、なだらかな山々が高層ビル群を抱くように広がる。

 小売りチェーン向けECプラットフォーム「Stailer(ステイラー)」を運営する10X(テンエックス)社長の矢本真丈(やもとまさたけ)(35)は、2022年1月、本社のある東京から、家族4人で自然豊かな大阪の北摂エリアに引っ越した。それまでも、子育てに最適な環境を求め、都内や青森などを転々としたが、これ以上ない場所を見つけたという。

スタートアップの注目人物になった今、イベントやトークショーの要請が多くなった。成功の秘訣(ひけつ)は、アイデアが湧くと実証実験を徹底して行う姿勢。毎日実験ばかりしていた大学院時代の癖が事業に生きる(写真=工藤隆太郎)
スタートアップの注目人物になった今、イベントやトークショーの要請が多くなった。成功の秘訣(ひけつ)は、アイデアが湧くと実証実験を徹底して行う姿勢。毎日実験ばかりしていた大学院時代の癖が事業に生きる(写真=工藤隆太郎)

 矢本率いる10XはBtoB事業のため一般には知られていないが、小売業のネットスーパー立ち上げに寄与して急速な成長を続け、小売り・物流業界から大きな注目を集めている。小売業がネットスーパーを独自に立ち上げるには莫大(ばくだい)な投資が必要だが、10Xが開発運営するステイラーのプラットフォームを使えば、初期投資は僅(わず)か。そんな利便性が小売業に評価され、現在はイトーヨーカドー、ライフ、スギ薬局などのスーパーや薬局チェーン9企業が採用、問い合わせを受けている企業は数十社に上る。

 パートナーの千香(36)は、東京に本社がある大手食品メーカーに勤務。2人はそれぞれ週に1度のペースで都内の本社で仕事をこなし、それ以外は自宅でテレワーク業務だ。

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