切明千枝子さん(中)は、大やけどを負った叔父を探しに行った病院で出会った、母とはぐれた幼い女の子のことがいまも忘れられない(photo 写真映像部・東川哲也)
切明千枝子さん(中)は、大やけどを負った叔父を探しに行った病院で出会った、母とはぐれた幼い女の子のことがいまも忘れられない(photo 写真映像部・東川哲也)

「非被爆者」である高校生が「被爆者」の絵を描くとは、どういうことなのか。基町高校の取り組みを、11年から調査・研究している立教大学社会学部の小倉康嗣教授は、「一対一で聞く-語るというやりとりのなかで、『知ってるつもりでい』た被爆体験が異化されるという対話的相互行為が積み重ねられていく」と言う。異化とは、新たな気づきや意味を生み出すということだ。

 そして、「(戦争体験の)継承とは、コミュニケーションなのだ」と語る。対話することで、被爆者の記憶が協働生成されるという。高校生とのやりとりの中で、被爆者自身が新たに忘れていたことを思い出し、それが、被爆者の感情を揺さぶり、刺激し、被爆者自身が自らの体験を見直していくきっかけにもなる。実際、生徒たちから質問され、全く覚えていないと思っていたことが、対話の中で少しずつ引き出されていった被爆者もいる。

 この15年間で、プロジェクトに参加した被爆者は46人。制作に参加した生徒(一部教員も含む)のべ177人。両者の共同制作により、歴史の記録である182点の絵が誕生した。(ノンフィクション作家・高瀬毅)

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