インタビューにこたえるブレイディみかこさん
インタビューにこたえるブレイディみかこさん

小説『両手にトカレフ』を上梓したブレイディみかこさん。本誌インタビューでは紹介しきれなかった執筆のこぼれ話や、今の日本の問題点についても話を聞いた。

――『両手にトカレフ』というタイトルが印象的ですね。トカレフという拳銃になったのには理由があるのでしょうか。

 画家の友人が「両手にトカレフ」というタイトルの絵を描いているのですが、それが少女の顔なんです。絵の中に銃なんてどこにも出てこない。なので「なぜ、これが両手にトカレフなの?」って聞いたら、「この少女は絵には描かれていない下の部分で両手にトカレフを握っているんだ」って話していて、詩的な感じがしたんですね。そこで友人に許可をもらってタイトルに使わせてもらいました。

 それともう一つ理由があります。ニコラス・ケイジ主演の「トカレフ」という映画があるのですが、イギリスではお昼の時間帯に何度か再放送されていました[MB1] 。いかにもB級映画ではあるのですが、主人公のミアのお母さんが家でテレビをつけっぱなしにしていて、ミアが見ていたりするということが、リアルにありそうだなって思ったんです。

――ミアが幸せだったのは、クラスメートのウィルという男の子が彼女のラップのリリックに才能を見出してくれたことも大きかったのではないでしょうか。

 実は、男の子に助けて欲しかったっていう思いがありました。本書は「私の価値を決めるのは私だ」とかミアに言わせているし、フェミニズムっぽいんですよね。

 手を差し伸べてくれるのは女性で、出てくる男の人ってみんな悪い(笑)。だから、短絡的に男は「悪」みたいにはしたくない気持ちもありました。女性同士が助け合うシスターフッドも大事だけど、男性の中にも女性を支える、男の子であっても支えてほしいっていうのがあったんです。ウィルというキャラクターは最初から出そうと思っていましたが、あの世代だとミアの置かれている環境がかわいそうという同情から好きになりがちです。それも嫌だったので、ミアがクールでかっこいいからという感じで好きになってほしかったんです。

――ミアはラップによって「言葉」を獲得していきますが、いまの日本は社会全体に物言えぬ空気が流れていると言われています。

 いきなり言葉にしていいよって言われても、小さい時からの積み重ねがすごく大事なんですよね。私は保育士でしたから、保育の段階からいろいろ変えていくべきことがたくさんあると思っています。実際に変えようとしてらっしゃる方も知っていますしね。

 具体的には、教育お金をかけることだと思います。例えば、保育士の配置基準です。子ども一人ひとりに話をさせようと思ったら、30人に保育士に一人では、同じことをさせないと回りません。せめて、1対8とかね。そのぐらいだったら、ちゃんと一人ひとりと話ができますよね。

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ボトムからの変化も必要