藤田麻衣子の旧姓は「比江嶋」(ひえじま)。ファンからは今でも「ぴえこ先生」の愛称で呼ばれる。現在はYouTube「ぴえちゃんねる」に好きな連珠とDIYの動画をアップ(photo 写真映像部・高野楓菜)
藤田麻衣子の旧姓は「比江嶋」(ひえじま)。ファンからは今でも「ぴえこ先生」の愛称で呼ばれる。現在はYouTube「ぴえちゃんねる」に好きな連珠とDIYの動画をアップ(photo 写真映像部・高野楓菜)

 AERAの将棋連載「棋承転結」では、当代を代表する人気棋士らが月替わりで登場します。毎回一つのテーマについて語ってもらい、棋士たちの発想の秘密や思考法のヒントを探ります。渡辺明名人、森内俊之九段(十八世名人資格者)、「初代女流名人」の蛸島彰子女流六段らに続く16人目は、どうぶつしょうぎデザイナーの藤田麻衣子元女流1級です。発売中のAERA 2022年7月4日号に掲載したインタビューのテーマは「将棋以外の楽しみ」。

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 2020年。歴史ある連珠(競技五目並べ)の分野において、女性が初めてA級(日本トップ10)に入った。その快挙を達成したのが、将棋の元女流棋士・藤田麻衣子だ。

「私は将棋がずっとファム・ファタール(運命の女性)だと思ってたの。『これ以上のものはないはず』と思って生きてきた。でも女流棋士を辞めたあと、連珠の面白さにはまって。短期決戦で、最初から詰将棋やってるような感じが合ってたんです」

 藤田は夫、高2の息子と暮らしている。現在は自宅をリフォーム中だ。

「去年の夏、連珠の大会で惨敗して。先輩の神谷俊介さん(連珠八段)に『どうしたら強くなれますか?』って聞いたら『生活を整える』って一言いわれて。連珠って序盤から『詰むや詰まざるや』があって神経使うから、最初から集中力を高めないといけないの。だからコンディションがすごく大事で。いい機会だから生活の質を高めるために、DIY(日曜大工)で部屋をリフォームしようと思って。時間は取られるけど、めぐりめぐってこの快適さは連珠のためになる。そうじゃなかったらここまでしないよ(笑)」

ふじた・まいこ/1973年8月3日生まれ。48歳。東京工業大学在学中に将棋を覚え1年半でプロに。2004年、女流1級。08年、どうぶつしょうぎをデザインし大ヒット。10年、引退。現在は連珠五段(photo 写真映像部・高野楓菜)
ふじた・まいこ/1973年8月3日生まれ。48歳。東京工業大学在学中に将棋を覚え1年半でプロに。2004年、女流1級。08年、どうぶつしょうぎをデザインし大ヒット。10年、引退。現在は連珠五段(photo 写真映像部・高野楓菜)

 藤田には将棋の競技生活で経験した反省があった。

「短期的・長期的な目標、改善点とか考えずに『ああ、また負けた。また対局。また負けた』。現役の頃はその繰り返しだった。人に勝つことだけがモチベーションだと、いつか限界がくるのね。だって上には上がいる。将棋教室で教えてきた生徒たちでも、負けが込みだすとやめちゃう子は多かった。自分も全然将棋が楽しくなかった時代が長かったから、その気持ちはすごくよくわかるのね。いま連珠が大好きだから『どうしたらこの先ずっと連珠を楽しく続けられるかな』って考えたときに、人と競わないところの目標を立てて、それをモチベーションにしたいんです」

 リフォーム中の藤田の部屋には、ぴかぴかの新しいトロフィーが飾られている。

「私が持ってる唯一のトロフィーですよ。いまバックギャモン(西洋すごろく)にもはまって。新人王戦みたいな中級クラスの大会で優勝したわけ。人生で初めてもらったトロフィーがギャモンになるとは私も予想しなかったね(笑)。ギャモンって毎回サイコロを振るから、びっくりするようなことが起こる。それにいちいち動揺してると身が持たない。だから連珠のために、ギャモンでメンタルを鍛えようと思って(笑)」

(構成/ライター・松本博文)

 ※発売中のAERA2022年7月4日号では、藤井麻衣子元女流1級が多彩な顔を持つ理由や、連珠への熱い思いも語っています。

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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