北朝鮮がミサイル発射を続けている。新型コロナウイルスの感染拡大はいったん落ち着いたもようだが、経済再建の道筋は見通せず、国民生活は苦しいままだ。AERA 2022年6月27日号より紹介する。

北朝鮮の金正恩氏
北朝鮮の金正恩氏

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 北朝鮮は6月5日、国内4カ所から計8発の短距離弾道ミサイルを日本海に向けて撃った。7回目となる核実験も、いつでも強行できる準備が整っているとみられている。国際社会からの経済制裁で、ただでさえ疲弊した国民生活が、コロナ禍で痛手を負っているさなかのミサイル発射だった。

 首都・平壌で新型コロナウイルスの感染者が確認されたと、北朝鮮が明らかにしたのは5月12日。感染者の存在を公式に認めたのは初めてのことだ。朝鮮中央通信によると、この日に金正恩総書記の出席のもと、朝鮮労働党の幹部を集めた政治局会議が開かれ、オミクロン株の流入を受けて「最大非常防疫態勢」に移行することが決まった。

■初めてマスク姿で登場

 金総書記はマスクを着けて会場に入った。マスク姿が公になったのはこれが初とみられる。同日午前に公開された写真では、会場の時計の針が3時前を指しており、未明に会議を開催したようだ。金総書記が人民のために、全力で対応していることをアピールする狙いが透けてみえる。金総書記は「全国のすべての市、郡で地域を徹底して封鎖」するよう指示したという。

 国家非常防疫司令部は、翌13日に全国的に17万人以上の発熱者が発生し、21人が死亡したと報告した。金総書記は14日、「建国以来の大動乱だ」と危機感を示した。北朝鮮ではPCR検査を広範囲で実施できる環境は整っておらず、実態は当局自身も把握できていない模様だが、感染が拡大したことは確実視されている。

 北朝鮮はなぜここにきて、感染者の発生を公表したのか。

「世界の潮流と同じく、北朝鮮も感染者の存在を前提にしたウィズコロナの方向に進むという意思表示だろう」

 こう話すのは、北朝鮮に詳しい環日本海経済研究所調査研究部の三村光弘・主任研究員だ。

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