AERA 2022年6月20日号より
AERA 2022年6月20日号より

 競馬や競輪などの公営ギャンブルのオンライン化が進み、気軽に始める若者も少なくない。スマホで気軽にギャンブルができるため、依存症の増加が懸念されている。オンラインの特徴に合わせた対策が必要だ。AERA 2022年6月20日号の記事から紹介する。

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 子どもが依存症に陥ってしまった場合、親がやってはいけないとされるのが「借金の肩代わり」だ。しかし、ヤミ金融に借金がある場合、利息の高さや取り立てへの恐怖から、払ってしまう家族も多いという。依存症者の回復施設「グレイス・ロード」(甲府市)統括センター長の池田文隆さんはこう説明する。

「親が肩代わりすると、本人に『何とかしてもらえる』という思いが染み付き、同じことを繰り返しがち。回復には、苦しくても自分のしたことと向き合う必要があります」

 池田さんはさらに続ける。

「『ギャンブル=借金の問題』と捉えるのではなく、なぜ依存しなければいけなかったかを考え、自分の抱える生きづらさに気づくことが大事です」

 医療機関での治療は、ギャンブルによって生じた思考のゆがみや依存対象から離れる具体的な方法を学ぶ一方、カウンセリングなどを通じて、「生きづらさ」に向き合うことが柱となる。当事者同士が経験や悩みを共有する「自助グループ」や、親ら家族が集まる「家族会」も、回復に大きな役割を果たしている。

 ただ、依存症治療の専門機関である国立病院機構久里浜医療センターの松下幸生院長は「現在の治療モデルは、オンライン化に追いつけていない」と指摘する。

■スマホでお金も出せる

 従来の治療では、「競馬場やパチンコ店に近づかない」「カードや通帳を家族に管理してもらう」といった物理的な方法に一定の効果があった。しかしオンラインの場合、スマホさえあればギャンブルを始められるし、スマホ決済サービスやネットバンキングでお金も引き出せてしまう。

「治療者も、依存症当事者からオンラインギャンブルの仕組みを学び、その特徴を踏まえた治療の手法を構築する必要があります」(松下さん)

 公営競技のオンライン投票サービスは、顧客の獲得に向けてつぎつぎと「魅力的」な特典を打ち出している。あるサイトでは、ユーザー登録するだけで「ポイント」を付与し、自己負担なしでギャンブルを始められる。サイト運営会社の動画広告では、有名俳優2人が「ノーリスク?」「ハイパーリターン!」と叫んでいる。「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さんはこう訴える。

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