■ツイッター株の非公開は、透明性の向上に逆行する

マスク氏の狙いは、すでに効果を生んでいる兆しもある。5月初旬、米上院司法委員会の公聴会で、大統領選の共和党候補に立候補した経験もあるテッド・クルーズ議員(テキサス州)は、興味深いデータを示した。
「私のツイッターアカウントのフォロワーは、おおむね1日1千から2千人のペースで増えていた。ツイッターがマスク氏の買収を受け入れた後、どのぐらい増えたかわかりますか?」
クルーズ氏はそう切り出した後、自分のフォロワー数の変化を並べた。
「(買収合意の)次の日の26日は5万1405人、27日は6万1261人、28日は7万584人」。わずか1週間半で、フォロワーが480万人から510万人に急増したという。
「全米の保守派の人々が、同じような数字を報告している。誰かがスイッチを切り替えたのは明らかだ」
ただ、投稿への介入を減らすマスク氏の方針には、批判的な見方も多い。
巨大IT企業を対象に規制を進める欧州連合(EU)は4月、違法コンテンツの排除などを義務化する「デジタルサービス法(DSA)」の内容で合意した。米国でもターゲティング広告の制限や、検索やSNSで何を先に表示するかなどを決めているアルゴリズムの透明性をめぐる規制などの検討が進んでおり、こうした動きに逆行する可能性もある。
「ネット上の誹謗(ひぼう)中傷を許せば、やがて発信する人が減り、一部の声だけが拡散されることになる」
元FB従業員で、ITコンサルタントのケイティー・ハーバス氏はそう話す。「表現の自由をうたうプラットフォームは多いが、何らかの投稿の管理は必要になる」
透明性の向上にも疑問が残る。ツイッターが非公開企業になれば開示すべき情報も減り、外部からのチェックがしにくくなる。マスク氏はテスラの広報部門を解散しており、米メディアの問い合わせにも答えない状態が続く。
世界一の富豪が指先で繰り出す「マスク劇場」に、しばらくは振り回されそうだ。(朝日新聞サンフランシスコ支局長・五十嵐大介)
※AERA 2022年6月6日号より抜粋