米ツイッターの買収で合意して約1カ月、「買収は保留」だと言い出した米電気自動車大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)。「世界一の富豪」は何を目指すのか、そしてツイッター買収実現による影響とは。AERA 2022年6月6日号の記事から。

【写真】「言論の自由」を掲げてツイッターの買収に名乗りを上げたイーロン・マスク氏

マスク氏はツイッターの買収が実現すれば、「永久凍結」したトランプ前米大統領のアカウントを復活させる考えを示している(写真:gettyimages)
マスク氏はツイッターの買収が実現すれば、「永久凍結」したトランプ前米大統領のアカウントを復活させる考えを示している(写真:gettyimages)

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 マスク氏が実際にツイッターを買収した場合、ネット空間の分断をさらに広げる可能性もある。

フェイスブック(FB)やツイッターなどのソーシャルメディアプラットフォームはかつて、自分たちは「場」を提供するだけで、投稿の内容には関与しないスタンスを取ってきた。

 だが米国では18年、英政治コンサルティング会社「ケンブリッジ・アナリティカ(CA)」にFBから最大8700万人の個人情報が流出し、米大統領選で悪用されていたことが発覚。民主主義をも揺るがす問題として、大手SNSへの批判が強まった。

 この問題を契機に、投稿内容などに一定の責任を負うべきだとの考え方が広がり、SNS各社はヘイトスピーチや偽情報対策を強化してきた。

 そうした流れの中で起きたのが、昨年1月の米議会襲撃事件だった。事件後、ツイッターはトランプ氏のアカウントを「永久凍結」にした。この対応に対し、SNS各社によるコントロールを「言論弾圧」だと主張する保守派からの批判が噴出した。

 米ピュー・リサーチ・センターの昨年の調査では、ツイッターが米国の民主主義に与える影響について「おおむねいい」と答えた人は、ツイッターを利用している民主党支持者の47%に対し、共和党支持者は17%にとどまった。「おおむね悪い」と答えた人は、共和党支持者で60%にのぼる。

 マスク氏は、民主党支持者が多いカリフォルニアで生まれたソーシャルメディアを、「表現の自由」を訴える保守派の共和党支持者らの望む形に「修正」しようとしているようにみえる。

 実際、マスク氏は5月の英フィナンシャル・タイムズ紙のイベントで、トランプ氏の永久追放は「道徳的に間違いで、全く愚かなことだ」と主張。ツイッターの買収が完了した場合、永久凍結を撤回する意向を明らかにした。

 マスク氏はトランプ氏の排除で「米国の大部分の人を疎外した」としたうえで、「トランプ氏の声を止めたわけではなく、むしろ右派の間で彼の声を増幅する」と強調。「ツイッターはサンフランシスコに本社があり、左派に強く偏っている。もっと公平になる必要がある」と話した。5月19日のツイートでは、「かつては民主党に投票していたが、今後は共和党に投票する」とまで言い切っている。

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