クラマトルスクの駅を攻撃したミサイルは国際条約で禁止されたクラスター弾を搭載していたとの指摘もある(gettyimages)
クラマトルスクの駅を攻撃したミサイルは国際条約で禁止されたクラスター弾を搭載していたとの指摘もある(gettyimages)

 ウクライナに侵攻したロシア軍による民間人虐殺が相次いでいる。「戦争犯罪」に該当する行為だが、プーチン大統領はどのような罪となるのか。AERA 2022年4月25日号は、同志社大学の浅田正彦教授(国際法)に聞いた。

【写真】同志社大学の浅田正彦教授

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 明らかに戦争犯罪を行ったロシアの責任をどう追及するか。ICCの他にも、国連安保理決議に基づく国際刑事法廷、国際司法裁判所(ICJ)などの選択肢がある。国際刑事法廷は旧ユーゴスラビアでの大量虐殺などの責任者を裁く「旧ユーゴスラビア国際刑事法廷」(1993年)や、ルワンダ虐殺の首謀者を裁く「ルワンダ国際刑事法廷」(94年)の例があるが、安保理常任理事国であるロシアが拒否権を行使するため、今回は難しい。現実的なのはICCとICJだと浅田教授は言う。

「ICJは個人を処罰するICCと異なり、国と国の紛争を扱います。侵攻直後の2月26日にウクライナがロシアをICJに提訴しましたが、これは両国が当事国で『紛争が起きたらICJで』と裁判条項で決まっている『ジェノサイド条約』をウクライナが援用した形です。提訴の理由は『ロシアが侵攻開始の口実として、ウクライナ東部で(親ロシア派への)ジェノサイドが発生しているとの虚偽の主張を行っている』というもの。『ジェノサイドを行っていない』ことを宣言してほしいとして提訴するというやや変則的なものですが、紛争は紛争ですから審理が続くことになるでしょう」

■ICC規程に上官責任

 一方、ICCは3月2日、戦争犯罪の立件に向けて捜査を開始したと発表。ICCには123の国・地域が加盟しているが、ロシアもウクライナも非加盟だ。支障はなかったのか。

「ICC規程では、非加盟でもいずれか一方がICCの管轄権を受諾する宣言をすれば、ICCは裁判が行えるんです。ウクライナは2014年のクリミア併合後の15年、無期限の形で『戦争犯罪と人道犯罪について管轄権を受諾する』宣言をしているので捜査は可能です」

 では、ICCはロシア大統領のプーチンに対し、どんな罪を問い得るのか。ポイントは処罰の対象として、実際に犯罪行為を行った「実行行為者」はもちろん、「自らは行っていないが、それを命じた者」も含まれていることだ。

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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