牛などの家畜をたくさん飼うことは、森林伐採などの環境破壊につながり、地球にやさしくない。将来、人口が増えて食肉の奪い合いになれば、おいしい焼き肉が食べられなくなるかもしれない。そんな時代に備えて、人工的に、安全でおいしい肉を作りだす新技術の研究が進んでいる。小中学生向けニュース月刊誌「ジュニアエラ」2月号では、培養肉の進化を紹介した。

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 小学生の好きな食べ物第1位はおすしだが、6位は焼き肉、7位はハンバーグ、10位はステーキ――。学研教育総合研究所「小学生白書Web版(2019年8月)」の調査によるが、肉系は根強い人気がある。でも、そんななかで、将来牛肉が食べられなくなる、あるいは大金持ちでないと買えないほど値段が高くなるかもしれない。

 世界の人口が増え続けると同時に、現在は貧しい国も豊かになって肉の消費量が増えると、世界中で牛肉の奪い合いになる。より多くの牛を飼うためには、森林を伐採して牧場を造る必要があるが、地球温暖化防止のため、これ以上の森林破壊はできない。また、牛を育てるために必要な大量の穀物(トウモロコシなど)と水が、貧しい国の人たちの食料や水の不足につながる恐れもある。

 そんな状況を反映して、「代替肉」や「培養肉」の研究が世界各国で盛んに行われている。代替肉は、大豆などを加工して肉の食感に近づけたもので、日本でもスーパーなどで売られている。培養肉は、牛などの生きた細胞を培養して、人工的に作られる肉のこと。すでにシンガポールでは、培養肉のチキンナゲットが販売され始めているという。

 大阪大学大学院の松崎典弥教授らの研究グループは、新しい技術を開発して、画期的な培養肉を作ることに成功した。注目を浴びている理由は、和牛肉の“サシ”を再現したことだ。

 これまで行われてきた培養肉の研究では、味や食感よりも量に重きが置かれていた。牛肉の場合は、赤身の肉をたくさん作り、ミンチにして、ハンバーガーにするというような食べ方を想定した研究だ。ハンバーガーはおいしい。でも、日本人だったら牛肉のイメージとして、“サシ”の入った和牛肉を思い描くだろう。サシというのは、赤身の間に模様を描くように脂肪が入った状態のこと。見ても美しい脂肪と赤身の絶妙なバランスが、和牛肉をすこぶる美味にしているのだ。

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上浪春海
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