北京市内のレストランはいつも大賑わい(photo 北野ずん)
北京市内のレストランはいつも大賑わい(photo 北野ずん)

 中国の2021年を「奇想天外な一年」と言う人がいる。隆盛を極めた塾業界が通達一つで事実上消滅。塾産業に関わっていた2千万人とも言われる人々が職を失った。一方エンタメ業界では、多くのスターが追放され、ファン活動にも制限が及んだ。北京五輪を控え、何が起きているのか。AERA 2022年1月24日号から。

【写真】中国のスポーツクラブの様子。健康への関心も高く人気だ

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 近年、映画やドラマの出演料が億単位になることも少なくないというバブルに沸いていたエンタメ業界。元EXOのメンバーで、中国で俳優・歌手として活躍していたクリス・ウー逮捕に始まり、国民的スターで実業家のヴィッキー・チャオ、俳優で歌手の張哲瀚(チャンジャーハン)、中国版「花より男子」などに出演し、高級ブランド「プラダ」のキャンペーンキャラクターも務めていた鄭爽(ジェンシュアン)など、芸能人が次々に「落馬(中国語で失脚の意味)」して追放された。

 8月下旬にはネット社会を管理する国家インターネット情報弁公室が「ファン・コミュニティーの乱れの管理強化に関する更なる通知」を発表し、ファングループの活動を厳しく制限。9月には「違法・非倫理的」な芸能人や中性的な男性タレントなど「いびつな美意識」を撲滅する通知まで出している。

 個人の内面に国家が踏み込む事態は、日本人的感覚ではなかなか理解しがたいが、北京の人たちに重さはない。

「みんな慌ててヒゲを生やし始めたわよ! ほらっ」

 などと俳優たちのヒゲ写真を送り合うことはしても、通知自体には無関心。人民日報を買って読む庶民がいないように、彼らは「政策」には関心がないのだ。

健康への関心も高くスポーツクラブも人気だ(photo 北野ずん)
健康への関心も高くスポーツクラブも人気だ(photo 北野ずん)

 人々が身構えたのは、女子テニス選手の彭帥(ポンショワイ)の名前を出したときだ。彼女のものとみられるアカウントから中国共産党の元高官に性的関係を強要されたという趣旨の投稿があり、直後に削除されて彼女自身も姿を消した一件には、「センサー」が作動したようだ。

 24歳の女性は「えっ、これは敏感な問題……」と口をつぐみ、39歳の女性も「これについては話せない」と沈黙。50代の男性には、

「ネットでちょっと見たけど、よく知らない。海外では冬季五輪にも影響が出るほどの大きな動きになっているんだって?」

 と逆に質問された。この件を知らないという人も、少なからずいた。

 カフェを経営する女性(53)の言葉が、人々の感覚を言い当てている。

「いろいろあるけど、少なくとも海外がこのことを知り、我々もこのことについてこうやって話せるわけだから、進歩していると思う。昔だったらまったく知らされなかったかもしれない。海外の人はこの進歩は見えないだろうけど、それも仕方ない」

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