AERA 2022年1月17日号より
AERA 2022年1月17日号より

■40歳で割り切った

荒川:最初の子どもが生まれたころは、家事も仕事も、無理をしてでもすべて守りたいと思っていました。でも、あるとき、背負ったものを少し下ろさなければ、もう倒れると気づいたんです。2人目が生まれた36歳を過ぎてからでした。7年かけて下ろせるようになったんです。

池谷:わかります。私も若いころ、仕事も生活も120%やりたい方でした。でも、完璧主義も突き詰めれば、ある程度の年齢になると疲れが勝ることに気づく。気持ちに体が追いつかず、気鬱に陥ってしまう人もいる。自分だけで抱え込まず、人に頼めることは頼んで、「明日できることは明日やろう」という気持ちでいく。そう割り切ったのが、私は40歳のときでした。

荒川:先生でもそうだったんですか! 私はやっぱり無理はしがちなんですけれど、先々のスケジュールを見て、「こう無理をして、こういう不調が起きる」とわかるようになってきました。最近は、それに備えて、何を削るかを前もって考えておくようになりました。

池谷:荒川さんは、常に緊張感をもって自分の変化に目を向けておられますね。そんな視点は、競技生活で培ったものですか?

荒川:私の現役時代は、いまと違い体のケアも栄養管理もサポートはつかず、選手に任されていました。人に頼れない環境が頼れない性格になり、「すべてを背負う」につながった面もあります。けれど、自分と向き合うチャンスには恵まれました。

池谷:なるほど。私は「若さ」には、自分と向き合うモチベーションを保つことも大きく関わってくると考えています。ポイントの一つは「常に見られている意識を持つ」ことです。

 現役時代もいまも、荒川さんは多くの方に見られていますね。

荒川:確かに、見られている意識は常にあります。いまも週に5回、1時間リンクに立っているのですが、子どもたちがいる時間も多いんです。練習も過ごし方もどんな背中を見せるのか、その緊張感が、自分自身のいまを支えているのかもしれません。

■背筋を伸ばして歩く

池谷:一般の人は「見られている」という妄想で構いません。「太ったと思われているかも」と気づけば、「ダイエットしなきゃ」とスイッチが入る。友人や同級生に会ったときに「変わらないね」「きれいだね!」と言われるところを何か一つ持てれば、「次はもっと磨いておこう」というモチベーションにつながります。いまは褒められるところがなくても、「じゃあ褒めさせてやろう!」くらいの気持ちでチャレンジするといいと思います。

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