虐待する親も傷つき困り疲れ果てた人である(kieferpix/gettyimages)
虐待する親も傷つき困り疲れ果てた人である(kieferpix/gettyimages)

 虐待を早期に発見し、大人が手を差し伸べる「虐待予防」の取り組みが動き出している。虐待の知識を理解すれば、周囲の大人たちが「気になる子ども」を見つけ出せる。AERA 2021年12月13日号から。

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 香川県の小豆島に住む救急救命士、西本義則さんは、救急隊に虐待予防の知識を広める活動をしている。2015年、児童虐待に関する講演に出席したことがきっかけだった。

「講演で医師が『虐待が疑われる子どもを家に帰したら、次は心肺停止で救急搬送されてくる可能性もある』といった内容の話をしたんです。そうなった時、現場に最初に入るのは僕たち救急隊員です。なのに、あまりに児童虐待のことを知らなすぎました」(西本さん)

■情報共有で子を救う

 だが当時、「児童虐待は、救急隊の関わる領域ではない」という空気が、職場にも、そして支援者側にも強かった。小児救急の専門医が作成した、多職種連携による虐待対応の図にも救急隊は含まれていなかった。

 西本さんは「自分たちも、殻にこもっていてはダメだ」と、島内の小豆島町、土庄町がそれぞれ設けている虐待対応ネットワーク「要保護児童対策地域協議会」に、消防署を加えてもらった。さらに今年11月、職場に働きかけて、小豆地区の消防本部で医療従事者向けの虐待対応研修プログラムを実施した。救急車には、虐待を早期発見するためのチェックシートも備えた。

「救急隊が『おかしいな』と気づければ、搬送の際に写真を撮るなどして証拠を残せるかもしれません。看護師や医師、救急救命士が違った目線で得た情報を共有することで、救える子も増えるはずです」

 西本さんは、得た知識を地域にも還元できると考える。職場で後輩たちに虐待の知識を伝えたところ、後輩の一人は「子どもが通う保育園で、『気になる子』に目配りできるようになりました」と話したという。

■助けてくれる大人いる

 国内外の研究で、被虐待児の3分の1が親になった時、子どもを虐待してしまう「世代間連鎖」が明らかになっている。逆に言えば、3分の2は子どもを虐待せずに育てている。どこでこの差が生まれるのか。

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