揺れる木の葉、花に集うミツバチ、川の流れ、浮かぶ雲などからもダンスを感じるという(写真=岸本絢)
揺れる木の葉、花に集うミツバチ、川の流れ、浮かぶ雲などからもダンスを感じるという(写真=岸本絢)

 振付家・ダンサー、砂連尾理。まつげとまつげを触れ合う。傘お化けになって歩く。いない人と踊る。砂連尾理にかかると、これらがすべてダンスになる。大きな賞を受賞し、コンテンポラリーダンスの世界で軌道に乗ったときに、障害者や認知症の高齢者らとのダンスへ舵を切った。人生を肯定できる小さな作品をつくりたい。「分断」になびく時代に抗うように、ダンスを通じて人と人を「つなぐ」。

【写真】7月に開かれた小学生向けのワークショップの様子

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 電動車いすに座った若い男性の曲がった指と、腰をかがめた細身の男性の伸びた指がすっと絡み合う。ゆっくりと弧を描き、離れる。男性が手を上昇させると、若い男性の手も上がる。指が驚くほど豊かなデュオを見せる。言葉はない。

 今年6月に公開された映画「へんしんっ!」の一場面である。第42回ぴあフィルムフェスティバル「PFFアワード2020」のグランプリ受賞作だ。若い男性は、監督・主演を務めた筋疾患の立教大学大学院生、石田智哉(24)。細身の男性は、振付家・ダンサーで、立教大特任教授でもある砂連尾理(じゃれおおさむ)(56)。

 映画は、石田の立教大映像身体学科の卒業制作として撮られた。コンセプトは、障害のある人の表現活動の可能性を探ること。石田は、演劇や朗読で活躍する全盲の女性らにインタビューを重ねたが、やや行き詰まりも感じていた。そんなとき、砂連尾が企画する、カフカの『変身』をモチーフにしたダンスへの出演を誘われた。

「床に寝ながら動くというのも、石田さんの、まさに変身ですよね。どういう変化が起きるか」

 この言葉で、石田は覚悟を決めた。インタビューするだけでなく、自らも表現者になるのだ。

兵庫県伊丹市で7月に開かれた小学生向けのワークショップ「ふれなくってもふれた気持ちになるダンス」の講師に。2人1組で目を閉じて向き合い、相手と同時に立ったり座ったりするダンスもした(写真=岸本絢)
兵庫県伊丹市で7月に開かれた小学生向けのワークショップ「ふれなくってもふれた気持ちになるダンス」の講師に。2人1組で目を閉じて向き合い、相手と同時に立ったり座ったりするダンスもした(写真=岸本絢)

 2019年2月の公演。石田は、途中で電動車いすから降ろされて仰向けに横たわり、女性ダンサーと繊細な指のダンスを演じた。2人を照らす緑色の明かりが消えて舞台は終わる。このシーンが、映画のクライマックスにもなった。

「砂連尾さんと指のダンスをしたときには、吸い込まれるように動き、周囲の音も聞こえなかった。公演では、こんなに動けるのかと驚き、自分の体を肯定できるようになりました」

 と石田は振り返る。砂連尾はこう語った。

「節度はもちろん大切です。でも、たじろがず、越えていくことで見られる風景もあるのです」

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