薪を燃やしてドラム缶風呂を沸かす高坂さん。右後ろ側の排気口に網をのせて野菜などを焼き、雑談しながら約1時間かけて適温になるのを待つ(撮影/今村拓馬)
薪を燃やしてドラム缶風呂を沸かす高坂さん。右後ろ側の排気口に網をのせて野菜などを焼き、雑談しながら約1時間かけて適温になるのを待つ(撮影/今村拓馬)

 人生の大半を、住宅と車と教育ローンの返済に追いかけられるような都市型生活──。コロナ禍でその価値観が揺らいでいる人も多いはずだ。ダウンシフターとの出会いをきっかけに、千葉県の「チョイ田舎」で暮らす人々がいる。AERA 2021年9月27日号の記事を紹介する。

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 見渡す満天の星は爽快だった。ソーラーパネルと並んで設置されたドラム缶風呂の燃料は、室内に設置されたストーブと同じ薪(まき)だ。

 ドラム缶の排気口には網が置かれ、缶ビールを片手にシシャモや野菜を焼き、約1時間かけて風呂を沸かした。

 千葉県匝瑳(そうさ)市に約3年前に移住した高坂勝(こうさか まさる)さん(51)宅は、太平洋に近く、真夏でも朝夕に涼しい潮風が吹きつけるので、冷房設備さえない。

「2台のソーラーパネルを小型ラジカセ大の蓄電池(約4万円)につなぎ、スマホやパソコンを充電します。スマートスピーカーと風呂の給湯、急な停電に備えて、台所とリビングに張りめぐらせたLEDライトも、電力を自給できています」(高坂さん)

 昭和初期のドラム缶風呂と、電気を蓄電池にためて持ち運ぶ近未来が混在する暮らし。共通点は「持続可能な低エネルギー生活」の先がけだ。

 しかも高坂さんは月収15万円で、数万円を貯金する生活を送っている。

 主な収入源は、匝瑳市内の田んぼで都市生活者に無農薬米の栽培体験を提供するNPO法人(SOSA Project)の理事と、自分の生活を軸としたスローライフ論を教える大学の非常勤講師、自宅を利用した民泊などだ。

「食料は市内で借りている田んぼで無農薬米と大豆を、自宅庭の畑で約30種類のオーガニック野菜を育てています。野菜は知り合いの農家さんからタダでいただくことも多いですね」(高坂さん)

 味噌や醤油、梅干しも自家製。オーガニックの調味料、食パンや豆腐などを時々買う程度で、食費は月約2万円。

 高坂さんが暮らす匝瑳市は、千葉から電車で約70分、新宿から約2時間半の「チョイ田舎」。人口は約3.5万人で、人口過密な大都市と、限界集落のような過疎地との中間だ。

 この7月末で、高坂さんのNPOでの農体験を経て同市に移住した人は、単身者と家族世帯で40人を超える。

「お米の自給を前提に、空き家利用で家賃の目安が5千円から2万円。食費2万円で合計4万円です。単身者で10万円、家族で15万円を、こちらで稼げれば暮らしていけます」(高坂さん)

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