市民にツインタワーと呼ばれ親しまれた世界貿易センター2棟の跡にできた新タワー。左の世界金融センターは倒壊を免れた(撮影/津山恵子)
市民にツインタワーと呼ばれ親しまれた世界貿易センター2棟の跡にできた新タワー。左の世界金融センターは倒壊を免れた(撮影/津山恵子)

 世界に衝撃を与えた「9.11」から20年。アメリカの教育現場では、9.11を生徒にどう教えるか、教師たちが苦闘している。授業の裁量の多くが教師に任されているアメリカだが、9.11の授業はほとんど実現しないという。一方で「無視できない」と奮闘する教師らもいる。AERA 2021年9月20日号で取り上げた。

【写真】家族とともに跡地に来たメラニーさん

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 シカゴの高校教師ディアナ・ダフィさんは、19年に同博物館で1週間、計40時間の「訓練」を受けるプロジェクトに参加した。遺族や生存者、消防士、米連邦捜査局(FBI)関係者などに次々とインタビューした。同時に博物館内の遺物に対面し、どうしたら授業に生かせるか、関係者と徹底的に議論を重ねた。

 今年もダフィさんは、高校1年生に対し、1回40分で2週分の9.11関連授業を準備した。筆者が電話インタビューをした9月7日は、崩壊寸前の世界貿易センターから飛び降りた人びとについての報道記事を読み、議論する授業を終えたばかりだった。

「彼らはなぜビルから飛び降りたのか、人が死亡するところを報道してもいいのか、などの疑問が相次いで生徒から湧いてきました。でも、こうした作業はとても重要。なぜなら生徒は、無視されたり、知らされていないことを嫌がるから、彼らの疑問には答えるべきです」とダフィさんは言う。

 9.11さえなければ、空港で靴を脱ぐような検査はなかった。イスラム教徒や中東の文化に対する偏見や差別も今日ほどではなかった。今では半ば世間で当たり前になってしまった状況が9.11以前にはなかったことを教えるためにも、そして今日の米社会が過去20年間にどう形成されてきたのかを知るためにも、9.11を理解することが重要だとダフィさんは言う。

■若者は大人より冷静

 米国の若い世代であるミレニアル/Z世代評論家でニューヨーク在住のジャーナリスト・シェリーめぐみさんは、若い人から「9.11について十分に教えられてこなかった」という声を過去に聞いてきた。ニューヨークに住む生徒らでさえ、授業でビデオを見た、あるいは前述の博物館に一度行っただけという証言を耳にしている。アフガニスタンからの米軍・同盟軍撤退やイスラム教徒に対するヘイトなど今日の複雑な問題につながるため、教えることが非常に困難になっていると分析する。

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