一方で、「開催による『楽観バイアス』で人流が増え、感染拡大の原因になるので中止を」については科学的とは言えません。その側面はゼロではないでしょう。ただ、コロナウイルスには春と夏に波が来て、また冬に波が来るという「季節性」が明確にある。この夏、五輪の時期に感染拡大したことも季節性で説明がつきます。かつ同じ時期に他の道府県でも、また他の先進国でも感染は増えていて、開催地の東京だけで感染者が増えているわけではありません。

 もちろん、国民にはワクチンも遅々として行き渡らずPCR検査体制も十分ではないのに、五輪とパラリンピックだけ充実させるのはダブルスタンダードです。「パラリンピックは中止し、リソースを国民の感染対策に回すべきだ」なら、あるべき議論だと思います。

 日本はただでさえ、議論が遅れています。米国ではワクチンの3回目の接種について「2回目を打ってから8カ月後に」という基準を提示しました。つまり「冬までに接種を」が論点です。日本で2月頃に打った医療従事者は、冬の感染の波までに効果が切れてしまうことになります。手持ちのワクチンを医療従事者の3回目に回すか、2回目を打てていない若い人に回すか。国民的議論を早急にしないといけません。

 冬の流行が始まっても、3回目の接種を終えている国はおそらく大きな流行はなく、少なくとも死者は出ないでしょう。でも日本は今夏よりもはるかに大きな流行になる可能性が高く、パニックになるかもしれません。パラリンピックの感染対策も考えつつ、「その先まで」を見据える必要があると思います。

(構成/編集部・小長光哲郎)

AERA 2021年8月30日号

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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