上昌広(かみ・まさひろ、52)/1968年生まれ。虎の門病院、国立がんセンター中央病院などを経て、現在は医療ガバナンス研究所理事長(写真:本人提供)
上昌広(かみ・まさひろ、52)/1968年生まれ。虎の門病院、国立がんセンター中央病院などを経て、現在は医療ガバナンス研究所理事長(写真:本人提供)

 感染爆発の中で開催予定のパラリンピック。その感染対策は果たして万全と言えるのだろうか。AERA 2021年8月30日号では、感染拡大が続いている中での大会開催について、医師の上昌広さんが自身の見解を述べた。

【写真】「軽すぎる五輪」が始まったのはこの瞬間から

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 パラリンピックの開催にあたって何よりも求められるのは、五輪の感染結果を検証し、対策に生かすことです。世界で初めてパンデミックの最中に国際的大規模イベントを行い、データが出ているのに、それに基づく議論が一切されていません。

 五輪では大会関係者の感染は512人報告され、総数約4万人として陽性率は約1.28%。一方で、選手は1万1656人のうち、陽性者の報告は28人。陽性率は0.24%と、関係者の5分の1ほどでした。選手はワクチンを打ち、毎日検査して、バブル方式で隔離することで、「感染をおおむね抑えることができた」ということができます。

■大きな反省がある五輪

 しかし、28人の選手が試合に出られなかったわけですから、そこは大きな反省点です。決して成功とは言えません。0.24%の選手たちの性格や行動履歴を分析し、反省を生かして感染対策をバージョンアップしなければいけません。パラアスリートの中には先天的に呼吸器に障害を持つなど、感染リスクがより高い人もいますので、個別の対応も必要です。ホストする以上は、五輪の数より高い感染者数を出したら恥ですよ。

 例えば、五輪で選手が受けていた抗原検査は、無症状者に対してはPCR検査の感度の4割しかなく、6割を見落とすことがわかっています。パラリンピックでPCR検査にすれば、もっと感染者を減らせる可能性があるかもしれません。

 また、いまや感染の主体は接触感染ではなく、離れていても感染してしまう空気感染です。接触感染なら「3密」に注意して濃厚接触者をマークしていれば防げますが、空気感染となるとバブル方式が効くとは限りません。換気をどうするか、屋内・屋外でどう対応を変えるか、通路や動線をどうするかなど、パラリンピックではより緻密(ちみつ)な議論が必要だと考えます。

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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