隣接する工房で作るジェラートは、素材を吟味。店頭にはローズマリーハニーやバターピーカンなど、魅力的なフレーバーが並ぶ。左が松本愛子さん、右奥が純さん(撮影/猪俣博史)
隣接する工房で作るジェラートは、素材を吟味。店頭にはローズマリーハニーやバターピーカンなど、魅力的なフレーバーが並ぶ。左が松本愛子さん、右奥が純さん(撮影/猪俣博史)
「甘夏民家」は築80年以上の邸宅。庭にあった甘夏みかんの木から命名。庭の手入れも自分たちで行っている(撮影/猪俣博史)
「甘夏民家」は築80年以上の邸宅。庭にあった甘夏みかんの木から命名。庭の手入れも自分たちで行っている(撮影/猪俣博史)

 海辺のまち、鎌倉・逗子・葉山が、東京からの転出先として大きな注目を集めている。名付けて「かまずよう」。超高層タワーのないこの場所で、いま、「会社員一択」ではない、多様な生き方と仕事観が生まれている。AERA 2021年7月12日号から。

【写真】シェアハウス「甘夏民家」は築80年以上の邸宅

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「昨年の5月、6月はステイホームで需要が冷え込みましたが、リモートワークが浸透した夏から、物件が動くようになりました。今は2年前の2、3割増しの価格でも、買い手、借り手がついています」

 そう語るのは、JR鎌倉駅西口で不動産業「COCO-HOUSE」を営む西本学央(たかひさ)さん(48)だ。

■鎌倉・逗子・葉山の人気がコロナ禍で再燃した

 コロナ禍が続く中、神奈川県は東京からの転出先として人気が高い。中でも湘南の海沿いにある鎌倉、逗子、葉山エリア──名付けて「かまずよう」は、現在、そんなミニバブルが生じるほど、注目を集めている。

 理由の一つは、西本さんの指摘する通り、コロナ禍で出社頻度が減ったこと。週に1、2回の通勤なら、多少時間がかかっても、海、山があり、昔ながらの商店街が息づくまちが人々を惹きつけるのは、不思議ではない。

 だが、「かまずよう」人気はコロナ禍で急激にわき起こったものではない。このエリアでは、10年前、東日本大震災の直後から、「ワーク=ライフ」の動きが活発化し、ショップオーナー、マイクロ起業家、フリーエージェントら「会社員」ではない人たちが、自由で自律的な生き方を実践してきた。「ワーク=ライフ」とは、ワーク・ライフ・バランスのさらに先を行く概念だ。「ワーク(仕事)」と「ライフ(人生)」を分けて、労働時間を切り売りするのではなく、両者を不可分のものとしてとらえる点に革新性がある。その価値観がコロナ禍を経て、いよいよ時代にフィットしてきた。

 江ノ電「鎌倉」駅のホームから見える御成通り界隈は、昭和の雰囲気が残るタイムスリップゾーンだ。その一角に工房を隣接したイタリアンジェラート店「GELATERIA SANTi(ジェラテリアサンティ)」がオープンしたのは2018年のことだ。オーナーの松本純さん(36)、愛子さん(36)夫妻が、ジェラート作りと経営にあたる。

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