検討会議では「大学入試の望ましいあり方」も議題にあげていた。しかしテスト理論が専門の、東京大学名誉教授で広尾学園中学校・高等学校校長の南風原(はえばら)朝和さんは「英語民間試験や記述式問題の議論に追われ、根本的な問題が棚上げされた印象だ」と指摘する。

「今回の入試改革について『理念はよかったが、制度設計や実現可能性の検討が不十分だった』という声を耳にします。しかし、実は理念そのものが曖昧で脆弱だったことが大きな問題です」(南風原さん)

 理念の中心に据えられたのは「思考力・判断力・表現力」の重視だ。だが、例えば「思考力」とはどのような能力で、どのように指導し、どうすれば評価できるのか。「判断力」はどうか、などについて十分な説明も合意もなかったという。

「『思考力・判断力』というものが明確にとらえきれていないから、記述式問題を導入すればよいという安易な発想になり、どのような記述式問題が必要かについて、十分な議論がなされてきませんでした」(同)

「検討会議では、入試改革の原点までさかのぼって検討する必要がある」との声もあった。南風原さんは言う。

「理念が曖昧で脆弱なままですと、再び『砂上の楼閣』が築かれ、同じ失敗を繰り返すことにならないか危惧します」

 検討会議の提言では、議論し尽くせなかった課題については5月に新設された「大学入学者選抜協議会」などで継続的に検討するよう求めている。

 現場や専門家の声に耳を傾ける、丁寧な議論を期待していきたい。(AERA編集部・石田かおる)

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