他方、丹野さんはこうも指摘する。

「検討会議には現場の教師や高校生も呼ばれ、だれもがオンラインで傍聴できる透明性がありました。今後もこうした透明性の下、教育政策が議論され、僕たちも人任せにするのでなく注視し、発言し続けることが大事なのかなと思います」

 国会に「英語民間試験の利用中止」を求める請願書を提出するなど問題提起を重ねてきた、京都工芸繊維大学教授の羽藤由美さんも次のように話す。

「導入断念は当然のことだと思いますが、検討会議の提言には疑問が残ります。導入が頓挫する過程で、英語民間試験の抱える問題がさまざまに顕在化しました。しかしそうした問題を検討することなく、活用を大学に求め、利用促進のための環境整備を国に求める内容になっているからです」

 共通テストでは複数の民間試験を活用することになっていた。だが、検定試験の品質を厳密に検査する第三者機関のシステムが確立されないまま進めようとしたため、採点方式や能力判定が事業者の自己申告になることもあった。そうした中で受験生の奪い合いも起き、混乱が生じたと羽藤さんは見る。

「今回の入試改革では『1点刻みの入試からの脱却』もうたわれました。しかし厳格な(文科省による大学の)定員管理が変わらないため大学は脱却を実行したくても難しい現状がある。それなのに英語民間試験には、複数の試験の成績を対照する段階別評価が持ち込まれるという矛盾もありました。これらの問題や矛盾などを解消することなく、大学に押しつけた形になります」(羽藤さん)

 一方、提言の中で、企業が求める英語力の明確化を求めた点は評価できると、羽藤さんは言う。

「英語を専門としない、一般的な大学生が英語を学ぶのは、入学後2年間、週2回程度。さまざまなプログラムを加えても限界があります。学生たちの時間は有限で、専門性を高める時間も重要です。加えて、大学は教員の削減で入試の作問を維持できるか危ぶまれているところも少なくありません。こうした現実を踏まえて優先順位を考える必要があります。ただ漠然と『グローバル人材がほしい』といっても空回りが続くだけです」

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入試改革の原点までさかのぼって…