池上:「なんとしても1カ月でこの事態を収めたい。だから私は皆さんに訴えているんです」って説得すればいいのに、「仮定の質問にはお答えできません」って。見通しや努力目標を示して、そのゴールに向かってみんなを鼓舞していくのが政治家じゃないのかって思いましたよ。

ヤマザキ:はい、こういう危機的状況に陥ったときに、どんな国であろうとリーダーが真っ先にやらなきゃいけないのは、まず国民への激励だと思うのです。頑張って生きている民衆に対して、激励ができるか、安心させられるかどうか。「とにかくみんなで頑張ろう。何とかするから」っていうような精神性を、盛ってでもいいから発せられるかどうかが肝心ではないかと。

 ちなみに、優秀な古代ローマの皇帝に求められていたのは弁論のスキルでした。とにかく民衆を魅了できる発言ができるかどうかであり、それは今の政治家たちにも求められているものと言っていいでしょう。一国の首相が「お答えできません」「わかりません」というのは、不安の中でなにかにすがりたいと思っている民衆にとってはやはり心もとない。

池上:あの時、菅首相は「仮定の質問にはお答えできません」ではなく、あえてムキになって怒ってみせなきゃいけなかったと思うんです。あなたは何を言ってるんだと。1カ月に抑える気が、あなたにはないんですかと。みんなで全力をあげてやらなきゃいけないじゃないですかって。そう言って記者を叱りつければよかったのにと、私は思うんですけどね。

ヤマザキ:まああれこれ理想を掲げることでもないとわかっているんですが。

池上:それに、菅首相は官僚が用意した原稿をひたすら棒読みしたり、プロンプターを使っても慣れてないから、ひたすらプロンプターをにらんで話すわけですね。まるで横を向いて話をしているように見える。その一つ一つがものすごく反面教師として勉強になるんですよ。

ヤマザキ:なりますね。

■一喜一憂しない自分

池上:先日も東北で大きな地震が起きて、たくさんのけが人が出ました。緊急の会議が開かれて、最初に菅首相が発言しているんですが、冒頭、けがをされたりした方へのお見舞いの言葉ですら、原稿を見ながら話しているんですよね。

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