イ・ランさん(写真提:スウィート・ドリームス・プレス)
イ・ランさん(写真提:スウィート・ドリームス・プレス)
『Allen Ginsberg’s The Fall of America: A 50th Anniversary Musical Tribute』のジャケット(写真提供:アレン・ギンズバーグ財団)
『Allen Ginsberg’s The Fall of America: A 50th Anniversary Musical Tribute』のジャケット(写真提供:アレン・ギンズバーグ財団)

 アメリカのみならず、世界は今こそ、この詩人の作品に向き合うべきかもしれない。第2次世界大戦後のビート文学を代表するアメリカの詩人、アレン・ギンズバーグ。反抗と自由を言葉につづり、閉塞する時代の中で、自らそれを朗読した。ギンズバーグの遺した作品……いや、その行動と思想は現代社会においても強く求められるものだと言える。

 そんなギンズバーグの代表作の一つである『アメリカの没落(The Fall of America: Poems of These States)』の出版50周年を記念して、アレン・ギンズバーグ財団企画制作による音楽コンピレーション・アルバム『Allen Ginsberg’s The Fall of America: A 50th Anniversary Musical Tribute』が先ごろデジタルでリリースされた(6月には一部内容を変えてCD、レコードで発売される予定もある)。全20曲収録の非常に興味深い作品だ。

 ギンズバーグの公式プロフィルには「詩人、世界旅行者、スピリチュアルな探求者、文学運動の創設者、人権と公民権の擁護者、写真家、政治的ガジェット、教師、詩学学校の共同創設者……」などとある。そしてそこには「ソングライター」という肩書もある。いわゆる音楽作品をコンスタントにリリースしていたわけではないが、ギンズバーグと音楽との関係は密で深い。自身のポエトリー・リーディングのいくつかは音源化もされている。

 また、あのポール・マッカートニーも生前のギンズバーグと交流を持っており、ポールの家をギンズバーグが訪ねたこともあった。そこから発展し生まれた作品「骸骨のバラード」は、ギンズバーグ本人が作詞と朗読を担当、曲と演奏をポールと現代音楽家のフィリップ・グラスが務め、そして何と1996年に公開された映像は『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』の公開を翌年に控えていたガス・ヴァン・サントが監督をしている(現在も動画サイトで見ることができる)。その「骸骨のバラード」で歌われている内容は、政治や人間社会への強烈なアイロニー。ギンズバーグが対抗文化の活動家・表現者であることを再認識させられる素晴らしい作品だ。この動画の翌年の97年に70歳で死去。来年2022年は没後25年になる。

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岡村詩野

岡村詩野

岡村詩野(おかむら・しの)/1967年、東京都生まれ。音楽評論家。音楽メディア『TURN』編集長/プロデューサー。「ミュージック・マガジン」「VOGUE NIPPON」など多数のメディアで執筆中。京都精華大学非常勤講師、ラジオ番組「Imaginary Line」(FM京都)パーソナリティー、音楽ライター講座(オトトイの学校)講師も務める

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