26年、アメリカ・ニュージャージー州でユダヤ系の父とロシア移民でスラブ系の母との間に生まれたギンズバーグ。コロンビア大学卒業後、北米各地を放浪し代表作となる『吠える(Howl)』(1956年)や『カディッシュ(Kaddish and Other Poems)』(1961年)を発表するが、その後再び放浪……今度はインドに渡りヒンドゥー教徒として修行、その帰途には日本にも立ち寄り禅などを学んだという。そうしてアメリカに帰国した彼は折からのベトナム戦争反対運動などにも関わるようになり、抑圧された社会の中でより強く言葉で自由を求めるようになっていく。

 『アメリカの没落(The Fall of America: Poems of These States)』という作品が刊行されたのはまさにそんな頃のことだ。月面着陸、68年の民主党大会、チェ・ゲバラの死、ギンズバーグの友人であり、かつての恋人でもあるニール・キャサディの死など数々のモチーフがちりばめられているが、全編にわたりベトナム戦争におけるアメリカを非難、批評した詩が多く収められた政治色の強い一冊。74年には全米図書賞・詩部門を受賞した。

 その『アメリカの没落』に収められている作品を、参加アーティストがそれぞれ独自に解釈したのがオムニバス・アルバム『Allen Ginsberg’s The Fall of America: A 50th Anniversary Musical Tribute』である。参加しているのは、ヨ・ラ・テンゴ、サーストン・ムーア&リー・ラナルド(元ソニック・ユース)、ビル・フリゼール、デヴェンドラ・バンハート、ザ・ファグスのエド・サンダースといったジャンルやフィールド、世代を超えたアメリカの曲者ミュージシャンたち。その中には、なんと日本の坂本慎太郎、韓国の女性シンガー・ソングライターのイ・ランも含まれている。

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