ロスタムによるYouTube
ロスタムによるYouTube"The Hill We Climb" - Piano Improvisation in G Majorから
ロスタム・バトマングリ (Photo credit: Alex John Beck 写真提供:ワーナー・ミュージック・ジャパン)
ロスタム・バトマングリ (Photo credit: Alex John Beck 写真提供:ワーナー・ミュージック・ジャパン)
アルバム「Half-Light」のジャケット(写真提供:ワーナー・ミュージック・ジャパン)
アルバム「Half-Light」のジャケット(写真提供:ワーナー・ミュージック・ジャパン)

 ファッションやカルチャー面でも話題を集めた、米ワシントンで開かれたバイデン新大統領の就任式。ジル・バイデン夫人のセルリアンブルー色のコートとドレス、国歌を斉唱したレディ・ガガの胸元の大きなハトのブローチ、「This Land Is Your Land(我が祖国)」を歌ったジェニファー・ロペスの全身シャネルの白……といった華やかな衣装は、新政権への期待とともに大いに注目された。とはいえ、マスク姿で足を組んで椅子に座った写真がグッズにまで発展したサンダース上院議員の、ゴアテックスのジャケットと手作りミトンという庶民的ないでたちが、最終的にはすべての話題をかっさらったと言えるかもしれない。

 そんな中、鮮やかなプラダのイエローのコートに身を包んで登場した黒人女性を覚えているだろうか。彼女はアマンダ・ゴーマン。まだ22歳のアマンダは、ハーバード大学在学中の19歳の時に、米議会図書館が創設した青年桂冠詩人に選ばれた俊英だ。ジル夫人が米議会図書館で朗読する映像を見て、今回の式典への出席をオファー。アマンダは書き下ろしの自作詩「The Hill We Climb」(わたしたちが登る丘)を約5分半にわたり、しなやかな手ぶりを交えて朗読した。

 「私たちはこの国と時代の継承者だ」「やせっぽちの黒人の少女が/大統領になりたいと夢見られる」「互いに手(arms)を伸ばす前には/まずは武器(arms)を下ろさねばならないと」……そんな力強いフレーズが重ねられたその詩には、世界中から多くの賛辞が寄せられた。ABCニュースの該当動画の再生回数は約144万回を記録(1月29日現在)。そこにつけられたコメントのトップには「アメリカ人であることは、私たちが受け継いだ誇り以上のもの。私たちが踏み込んだ過去と、それをどのように修復するかということ」といった内省と再出発を誓うものも。若く小柄な黒人女性による理性的な朗読こそ、就任式最大の目玉だったとする声も多い。

 アマンダの「The Hill We Climb」(わたしたちが登る丘)の朗読に心を揺さぶられ、その日のうちに即興で曲をつけてYouTubeにアップしたアメリカの音楽家がいる。ロスタム・バトマングリ。ワシントンDCでイラン/ペルシャ系の家庭に生まれた37歳の鬼才だ。主に「ロスタム」と名乗って活動している。

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岡村詩野

岡村詩野

岡村詩野(おかむら・しの)/1967年、東京都生まれ。音楽評論家。音楽メディア『TURN』編集長/プロデューサー。「ミュージック・マガジン」「VOGUE NIPPON」など多数のメディアで執筆中。京都精華大学非常勤講師、ラジオ番組「Imaginary Line」(FM京都)パーソナリティー、音楽ライター講座(オトトイの学校)講師も務める

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