「質と価値をテーマに小説を書くことを友人に話したら、『人それぞれ、で終わっちゃう話じゃない?』みたいに言われたんです。痛いところを突かれたのですが、その後、『共感は得られなくても、今の朝井さんが思うコレって答えを一つでも書いてほしい』とも言われました。それがずっと頭に残っていて、特に後半はその友人の一言を握りしめながら書いていました」

 作中にも登場する通り「伝えたいことがあるんだったら人がたくさんいる場所にそれを置くべきなんじゃない」ということは自身も考える。それでも書き続けるのは、小説の力を信じているからだ。

「『本は人を、数時間、一人にしてくれるもの』。これは小説家の窪美澄さんの言葉なのですが、すごく良い言葉ですよね。そういうふうにして、時空を超えて予期せぬ“一人”に届くことがあると信じて、書いています」

(ライター・濱野奈美子)

■リブロの野上由人さんオススメの一冊

新しい立憲民主党の衆議院予算委員会筆頭理事、辻元清美による『国対委員長』は、野党の国会対策委員長の実績と限界を記した回顧録だ。リブロの野上由人さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

*  *  *

 2017年、民進党が分裂して立憲民主党が立ち上がり、その最初の国会対策委員長に就任した辻元清美の回顧録である。安倍一強と言われた政界で野党の国対委員長にできることは何か、その実績と限界が記されている。自民党の二階俊博幹事長や森山裕国対委員長も登場する実録の数々は、日曜劇場あたりで映像化したらおもしろそうだ。

 特に第3章「野党が審議拒否をする本当の理由」が重要。サボタージュと批判されるのを覚悟のうえで、なぜ野党は国会を止めるのか。その成果は何か。過酷な奮闘に悔しさを滲ませつつ、少数野党の存在意義を訴える。

 辻元は現在、新しい立憲民主党の衆議院予算委員会筆頭理事に就任している。今度は国会の表舞台で、現場監督として活躍するに違いない。そのうち本書の続編が書かれることも併せて期待したい。

AERA 2020年11月2日号