朝井リョウ(あさい・りょう)/1989年、岐阜県生まれ。2009年『桐島、部活やめるってよ』でデビュー。13年『何者』で直木賞受賞。来春、作家生活10周年記念作品[黒版]『正欲』を発売予定(撮影/写真部・加藤夏子)
朝井リョウ(あさい・りょう)/1989年、岐阜県生まれ。2009年『桐島、部活やめるってよ』でデビュー。13年『何者』で直木賞受賞。来春、作家生活10周年記念作品[黒版]『正欲』を発売予定(撮影/写真部・加藤夏子)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。

【写真】横浜流星さんと対談する朝井リョウさん

朝井リョウさんによる小説『スター』のあらすじはこうだ。新人の登竜門となる映画祭でグランプリを受賞した立原尚吾と大土井紘。大学卒業後、真逆の道を選んだ二人は社会に翻弄されながら自分を発見していく。著者の朝井さんに、同著に込めた思いを聞いた。

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 デビュー作から一貫して鋭い視点で多様な若者をすくい取ってきた朝井リョウさん(31)。作家生活10周年記念作品[白版]と銘打たれた新作では、昔ながらの映画を制作している監督に弟子入りした立原尚吾とYouTubeの映像制作をするようになる大土井紘を対比させながら、価値の転換期を生きる難しさが鮮やかに描かれる。

 質にこだわること、再生回数を上げること、評価されること、折り合いをつけること……何かを表現しようとする人ならきっと激しく感情を揺さぶられてしまうであろう作品だ。

「新聞連載だったので、読者が先を読みたくなるよう視点人物を次々に入れ替え、読みながら立場がくるくる変わる構成にする予定でした。でもいざ書いてみると、内省的な対話が多い作品になりました」

 その作家性から若者の代弁者のように語られることが多い朝井さんだが、本作では主人公を取り巻く年長者たちの言葉にも血が通ったリアルさが感じられる。

「そうなっていたら嬉しいです。でも年長者をリアルに書けているかは常に不安です。気を抜くと童話の中のおじいさんみたいな造形になりそうで。ただ今回は20代前半の主人公2人を書きながら、彼らの意見に対して『そうも言ってられないよな』と感じる自分がいました。新鮮な感覚でした」

 新しい表現の場が登場し、人の興味もどんどん変わっていく。そんな時代を切り取った、まさに現在進行形の物語。だからこその難しさもあったという。

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