──飲み会は減っていても、沿線で深夜まで働く人に不便を強いることになりませんか。

 我々も、医療機関などへの影響は懸念しまして、個別に聞き取りを行ったところ、交代制の勤務態勢のため終電の時間帯に出退勤するということはほとんどない、というご回答でした。また、繰り上げは他社路線への乗り継ぎに支障のない範囲で行います。アンケートでも終電繰り上げに反対またはどちらかと言えば反対の方が十数%おられましたが、「他社の終電への接続を確保する」という条件でお聞きすると半分に減りました。

 終電繰り上げにより路線補修に使える時間が長くなることで、限られた人員でも効率的に作業を行うことができます。厳しい経営環境の中、安全確保とコスト削減を両立させる必要があるということをご理解いただきたいと思います。

──コスト削減と安全確保の両立は簡単ではありません。

 近年急増するゲリラ豪雨への対策はその一例です。従来は平均12キロ間隔で自前の雨量計を設置して運行可否を判断してきましたが、ごく局地的な豪雨の観測は難しく、16年7月には広島県内の芸備線で列車が線路上の土砂に乗り上げる事故がありました。そこで国土交通省や気象庁のレーダーによる雨量情報を活用し、点ではなく面で降雨状況を確認できる仕組みを9月から一部で導入しました。コストを下げつつむしろ安全性を高められると考えており、全ての路線に順次導入する予定です。

■変動運賃阻む規制の壁

──コロナ禍で列車内の「密」を嫌う人が多くなっています。

 通勤時間帯の「密」を軽減する方策として考えているのが、ラッシュ以外の時間帯に列車に乗っていただくと運賃が安くなる時間変動型運賃です。技術的には可能なのですが、現状では国交省に認めていただけない。というのも、全体で我々がいただく運賃収入が変わらないようにするには、形として、混んでいる時間帯の運賃を上げなくてはなりません。今年夏からJR東日本さんなどとも一緒に、国交省に対して我々が儲けるための値上げではないとご説明し、導入を認めていただけるようお願いしているところです。

──高速道路はリアルタイムで混雑具合がわかるのに、列車はその仕組みがありません。

 駅や電車の時間帯別の混雑率は公表していますが、確かにリアルタイムではありません。お客様の意識が「密」を避ける方向へと変わっている中で、そういったデジタル投資はもっと進めなければと考えています。車両にセンサーやカメラを設置して、その情報をAIで解析してリアルタイムの混雑状況を知るといった方向性は必要だと考えていますが、全車両となるとコスト面も検証が必要です。

(聞き手/編集部・上栗崇)

AERA 2020年10月26日号より抜粋