糸谷哲郎八段(手前右)は「思考をショートカットすることで、将棋は強くなる」と語る(c)朝日新聞社
糸谷哲郎八段(手前右)は「思考をショートカットすることで、将棋は強くなる」と語る(c)朝日新聞社
AERA 2020年10月5日号より
AERA 2020年10月5日号より

 大学に進学せず棋士に専念することが多いなか、大阪大学文学部哲学科から同大学院博士前期課程修了の棋士がいる。糸谷哲郎八段だ。棋士と学問の両立で感じたこととは――。AERA 2020年10月5日号で掲載された記事を紹介する。

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 進学しないことを明言している藤井聡太二冠(王位、棋聖)も含めて、羽生善治九段(50)や谷川浩司九段(58)ら棋界の時代を彩った寵児たちは、大学に進まず棋士に専念した例が多い。

 しかし近年では大学進学をする棋士も増え、タイトルを獲得するトップ棋士もいる。

■自分からできる努力

 なかでも竜王位を獲得したこともある糸谷哲郎八段(31)は、大阪大学文学部哲学科から同大学院博士前期課程修了という、究極の二刀流。将棋と学問をいかに両立させてきたかについて、糸谷八段の話をじっくり聞いているうちに、互いに共通する思考回路や方法論が浮かび上がってきた。

 まず、将棋と学問における「資質」について、糸谷八段はこう考えている。

「ともに求められる資質はモチベーションですが、将棋の場合は特に闘争心が大事。学問はどんなことであれ、強く興味を持つことが必要でしょう。将棋で勝ちたいと必死に努力するのは、勝つと楽しいからです。将棋にしても学問にしても、やらされている状態では伸びない。自分からできる努力が大切で、実際に楽しんでやっている子はどちらも伸びますよね」

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