具体的には、番号を変えずに携帯会社を乗り換えるMNPの手数料を、年度末までに無料化するよう各社に義務づける。さらにインターネットの光回線と携帯のセット割引を禁止する。「2年縛り」など拘束期間付きで安くなる携帯の料金プランについては携帯大手はすでに見直しを進めているが、総務省関係者は「光回線については依然として縛りがあり、光とセットのプラン利用者は携帯会社を乗り換えにくい」と問題視している。

 特に高いとされる大容量プランの値下げに向けては、MVNOに期待する。総務省は今年から、MVNOが携帯大手からデータ通信回線を借りる際に支払う「接続料」の算定方式を変更した。これにより、接続料が3年後には半額程度まで下がる見通しとなった。総務省はまずはMVNOに大手の半額程度の大容量プラン導入を促すことで、次に、携帯大手が対抗値下げすることに期待を込める。

■切り札eSIMに難点

 しかし、これまでの総務省の競争促進に向けた環境整備は狙い通りの結果をもたらしていない。料金値下げはおろか、その前提となるはずの携帯各社間の乗り換えの活性化も起きていない。値下げ期待が利用者の腰を重くしている面もあり、各社の解約率は0.5%程度のままだ。

 乗り換えを増やす「切り札」はないのか。携帯大手の関係者が「乗り換え活性化につながるのは間違いない。携帯大手は確実に嫌がる」と断言するのが、オンライン上で携帯電話会社を簡単に変更できる「eSIM」という仕組みへの対応を携帯大手に義務付けることだ。

 SIMとは、携帯電話会社や電話番号などの情報の入った小さなカードで、機種変更の際にスマホに差し込んだことがある人も多いはずだ。eSIMはこれをスマホに組み込んだもの。ショップで契約したり、カードを差し替えたりしなくても、スマホ操作で簡単に携帯会社を乗り換えることができる。

 すでにiPhoneやGalaxyの最新機種には組み込まれているが、「携帯会社を毎月乗り換えるのも苦ではなくなるため」(関係者)、大手各社は対応に後ろ向きとされる。また、新型コロナで客足が激減している携帯電話ショップの営業に悪影響を与えるなどのデメリットもあるため、総務省は慎重に検討するとみられる。

 しかし結局、間接的な環境整備しかできない以上、どこまで値下げするかは携帯大手任せという図式は変わらない。また携帯大手への値下げ圧力を強め過ぎれば、各社が5Gを整備するための資金的な余裕を削ぐことになり、菅氏が進める社会のデジタル化に支障をきたす恐れも出てくる。様々なジレンマを抱えた携帯値下げに政府も消費者も満足する日は来るのか。菅氏が総務大臣時代の07年から始まった携帯電話各社とのバトルの最終戦の勝者は。(ライター・平土令)

AERA 2020年10月5日号