なぜそうなのか。ここから先は、時系列で説明していく。

 8月10日、宮内庁が同月10日から16日までの天皇、皇后両陛下の日程を発表した。11日に中満泉(なかみついずみ)・国連事務次長と面会、体調が良ければ、皇后雅子さまも同席する、とあった。

 すぐに思い出したのが、2017年10月、上皇后美智子さまがお誕生日にあたって出された宮内記者会への文書回答だった。「1年を振り返って感じられたことをお聞かせください」という質問への多岐にわたる答えの中、中満さんについて1段落があてられていた。

「世界にも事多いこの1年でしたが、こうした中、中満泉さんが国連軍縮担当の上級代表になられたことは、印象深いことでした」で始まり、就任以来の中満さんの言葉から「軍縮とは予防のことでもあり、(略)起こり得る紛争を回避することも『軍縮』の業務の一部であることを教えられ、今後この分野にも関心を寄せていく上での助けになると嬉しく思いました」とあった。

 なぜこれほどお詳しいの? という失礼な疑問は、この段落の最後に解消した。「国連難民高等弁務官であった緒方貞子さんの下で、既に多くの現場経験を積まれている中満さんが、これからのお仕事を元気に務めていかれるよう祈っております」

■渡された作文のコピー

 美智子さまと緒方さんは聖心女子大の卒業生同士。テニス仲間でもあった。この2年後、緒方さんが亡くなった際には美智子さまも葬儀場を弔問されている。緒方さん、そしてその後輩にあたる中満さんに、美智子さまはずっと注目していたのだ。

 それが頭にあったので、陛下と雅子さま(体調が良ければということだったが、これは念のための表現であり、お二人での面会になることが通例になっていた)が中満さんと会うという発表に接し、「美智子さまの思いを継ぐ意思表示でもあるのだな」と思ったりしていた。

 そして11日、お二人は赤坂御所で中満さんと会った。6日と9日、広島と長崎の「原爆の日」、事務総長の代理として平和式典に出席した中満さんはお二人に、被爆地での若い世代の取り組みや世界の核軍縮の現状を説明したという。もしそれだけだったら、陛下の「今後とも」に感動することはなかったと思う。が、実際には「今後とも」への確かな一歩があった。お二人から中満さんに愛子さまの作文のコピーが渡されたのだ。

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