感染をめぐって意識や価値観の違いが浮き彫りになり、家庭や職場でさまざまな軋轢が生じ、社会的な分断へとつながっていく。背景には安定した社会が崩れることに対する恐怖がある。AERA 2020年8月31日号から。
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コロナは、「社会の分断」も生み出した。
市民が市民を監視する「自粛警察」、帰省者を中傷する「帰省警察」、マスクをしていない人を攻撃する「マスク警察」など、多くの分断が生まれている。
大阪市の美容院の入り口のガラス戸に5月中旬、「さっさと店閉めて緊急事態宣言が終わるまで家で大人しく寝ててください。次発見すれば、通報します。」などと書かれたビラが貼られた。ビラの冒頭には「ミナミ区自粛警察出動」の文字。店は、緊急事態宣言が出た4月7日以降、営業を自粛していたが、元々美容室は休業要請の対象外。換気や消毒を徹底するなど感染予防策を講じた上で、4月末から再開していたという。
8月中旬、奈良県天理市の天理大学ラグビー部で集団感染(クラスター)が発生したが、部員以外の複数の学生がアルバイト先から「やめてほしい」などと言われたと報じられた。
関西に住む会社員の女性(29)は、8月上旬、「マスク警察」に絡まれた。
女性は皮膚が弱く、マスクをしていると顔がかぶれるので、職場以外ではノーマスク。この日は、用事があったため電車に乗り窓際に立ってイヤホンで音楽を聞いていた。すると同じ車両にいた見知らぬ中年男性が近づいてきて、「マスクしましょうね!」と言ってきた。女性は怖くなって手足が震え、ひたすら会釈を繰り返していると、男性はその場でくるくる回るなど挙動不審な動きを始めた。男性は次の駅で降りていったが、降りた後も、何度もこちらを見ながら去っていったという。女性は振り返る。
「SNSでよく見かけるマスク警察が、自分にも絡んできて本当に怖かった」
差別、攻撃、恐怖──。こうした社会的分断の背景には何があるのか。社会心理学が専門の近畿大学の村山綾准教授は、「公正世界信念の揺らぎ」をキーワードにあげる。頑張った人は報われ、頑張らなかった人は痛い目に遭う──。世の中にはこうした秩序があると信じることが「公正世界信念」だ。『桃太郎』のような童話を思い出すとよくわかるが、公正世界信念を持つことは心の安定にもつながる。