「しかし、世界は常に秩序でもって安定しているわけではなく、不意に理不尽な事件や事故、災害の被害者になることもあります。すると人々は公正世界信念を維持するため、何か原因を探して安心しようとする。『気を付けない人がいるから感染が広がる』『感染したのは落ち度があったからだ』と思い込み、それが差別や攻撃につながります」(村山准教授)

 なかでも社会的弱者がスケープゴートにされ、攻撃の対象になりやすいという。

「ターゲットになったのは、クラスターが発生した大学の学生や若者、さらにいわゆる『夜の街』やパチンコ店、高齢者施設など、いずれも自ら声を上げにくい、影響力のある情報発信の手段を持たない人たちです。クラスター化したのは事実かもしれませんが、その背景にどのような要因や共通点が見えてくるのかといった、感染拡大の防止に向けた議論をせず、そのような集団に属する人を排斥したり敵対的な目を向けたりするのは、社会全体にとって不利益になります」(同)

「分断」を解決するにはどうすればいいか。

 村山准教授はまず、家庭や職場などでの軋轢による分断についてこう提案する。

「考え方に齟齬があるなら、はっきり言葉にして相手に伝えることが大切。しかし同時に、他人の行動を変えるのは難しい。そこで、自分の行動を変えることに目を向けるのもいいでしょう。例えば、帰宅直後に手を洗ってくれない家族をどうしても許せないのならば、玄関近くの目につく場所に消毒スプレーを設置する、相手の手に自分で消毒スプレーを吹きかけるなどの工夫も考えられます」

 一方、社会的分断については、国やメディアの役割が重要だとして、次のように提言する。

「社会的分断は格差の問題とも連動しているため、すぐに解決するのは難しい。しかし、さらなる分断を避ける工夫は必要です。そのためには、まず国や自治体が明確な方針を積極的に発信すること。どう行動していいかわからないと、弱者への攻撃にもつながります。メディアも、毎日の感染者数ばかり報道すると、その狭い情報が特定の人たちへの攻撃につながりかねません。日本全体を俯瞰した報道を心がけてほしい」

 意に沿わない人を攻撃するのは成熟した社会ではない。私たち一人一人の本質が、問われている。(編集部・野村昌二)

AERA 2020年8月31日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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