エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子
7月27日午後、4連休明けの東京・渋谷のスクランブル交差点では、大勢の人が行き交っていた (c)朝日新聞社
7月27日午後、4連休明けの東京・渋谷のスクランブル交差点では、大勢の人が行き交っていた (c)朝日新聞社

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 7月31日、8月1日と東京では1日の感染者が2日連続で400人を軽く超えました。全国の都市部を中心に感染の勢いが増し、今後重症者が増えることが懸念されています。でも国会は開かれず、週末に街を歩けばおしゃれなレストランは賑わっています。そしてお盆へ。緊急事態宣言が出されていたころよりも深刻な数字が出ているのに、あの時のような緊張感は感じません。これはコロナに対する慣れという心の免疫反応なのか……。

 免疫が全ていいように働くわけではありません。新型コロナの感染でもサイトカインストームという免疫システムの暴走によって症状が急激に重篤化することが指摘されています。非常事態が起きると周囲の状況に敏感になり、心配事が増えるもの。不安は身を守るために必要ですが、行き過ぎると心のバランスを崩してしまいます。一方で、ストレスに慣れることによって不安から心を守ろうとすることも。これまた行き過ぎると、危険を過小評価してしまいかねません。

 いつまでもおびえていても仕方がない。自分は重症化しないだろうから、はやり風邪だと思って普通に暮らそう、という開き直り。レストランで大勢で談笑している人たちも、もしかしたらそんな心境なのかも。ウイルスが再燃しているオーストラリアのメルボルンでも、以前のように封じ込めがうまくいかない要因の一つに人々が外出制限を守らなくなっていることがあるようです。

 感染リスクのもとで日常生活を回すには、飛沫対策や距離の確保、頻繁な手洗いを習慣化することと、そんな日常に慣れずにいることを両立しなくてはなりません。矛盾するけど大切なこと。日々危機感を更新するために、正確な情報に触れ続けることが必要です。用心深さこそが勇気さだと肝に銘じて、コロナ慣れを厳重警戒しなくては。

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中

AERA 2020年8月24日号

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小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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