政府の方針を追認する新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長 (c)朝日新聞社
政府の方針を追認する新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長 (c)朝日新聞社

 突然の東京除外。全国的な感染拡大の中、詳細が周知されないままの見切り発車。世論調査でも国民の大半が見直しを求めるGoToトラベルにブレーキがかからない。一体、何が起きているのか。AERA 2020年8月3日号は、その背景に迫った。

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 7月5日に海開きした新潟県柏崎市の鯨波(くじらなみ)海水浴場は、梅雨明けも近いというのに今も閑散としたままだ。近くの小竹屋旅館を家族で経営する杤堀(とちぼり)耕一さん(49)は例年と違う夏に寂しさを感じている。

「これだけ『感染拡大だ』とメディアで騒げば、影響が出るのは当然でしょうが……」

 旅館では5月は宿泊を受け付けず、6月に再開してからも1日に2組までに限っており、売り上げは激減したままだ。問題ばかりが指摘される政府の観光支援策「GoToトラベル」だが、1兆3500億円という予算規模に杤堀さんは当初、効果を期待していた。

 ただ、今は不安ばかりだ。自分の宿が対象となるかどうかも分からない。杤堀さんが言う。

「宿泊プランを作って必要な物品と食材を調達しなければなりませんが、確定しないと何も動けません。制度が複雑で分かりにくく、あり得ない建て付けになっているからです」

 困惑は旅行業者にも広がる。海外旅行を専門に取り扱っていたトラベル・スタンダード・ジャパン(東京)は、今夏から沖縄や北海道など国内旅行も手がける予定だった。GoToトラベル事業の開始に対応を迫られ、国内旅行の取り扱い開始も予定通りに進まない状況だ。

 藤山仁志取締役はこう話す。

「事業には期待したい。何カ月も苦しい時期が続いたので、皆さんに旅行に行ってもらうきっかけを作るという意味でもありがたいと思っています」

 期待と混乱を観光業界へもたらしたこの事業は、4月30日に成立した国の第1次補正予算に盛り込まれた総額1兆7千億円の「GoToキャンペーン」事業の一つだ。

 補正予算の成立から約1カ月後、緊急事態宣言が全国で解除された5月25日に記者会見で安倍晋三首相は「わずか1カ月半で今回の流行をほぼ収束させることができた」と胸を張ったが、そのわずか1カ月半後には東京都で公表される感染者が1日に200人を超え始めた。

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