西田亮介(にしだ・りょうすけ、左):1983年、京都生まれ。専門は社会学。博士(政策・メディア)。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。7月、『コロナ危機の社会学 感染したのはウイルスか、不安か』(朝日新聞出版、税込1650円)を上梓した/堀潤(ほり・じゅん):1977年、兵庫県生まれ。2013年にNHKを退局。現在は、ジャーナリスト・キャスター・映画監督として独自の取材や報道・情報番組に出演、多岐にわたり活動している(写真:写真部・張溢文[西田さん]、朝日新聞社[堀さん])
西田亮介(にしだ・りょうすけ、左):1983年、京都生まれ。専門は社会学。博士(政策・メディア)。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。7月、『コロナ危機の社会学 感染したのはウイルスか、不安か』(朝日新聞出版、税込1650円)を上梓した/堀潤(ほり・じゅん):1977年、兵庫県生まれ。2013年にNHKを退局。現在は、ジャーナリスト・キャスター・映画監督として独自の取材や報道・情報番組に出演、多岐にわたり活動している(写真:写真部・張溢文[西田さん]、朝日新聞社[堀さん])
『コロナ危機の社会学 感染したのはウイルスか、不安か』西田亮介著 ※楽天ブックスでの購入はこちら
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 不安が社会に蔓延(まんえん)すると、どのような影響をもたらすのか。社会学者の西田亮介さんが新刊『コロナ危機の社会学 感染したのはウイルスか、不安か』で着目したのは、「耳を傾けすぎる政府」だ。一方、ジャーナリストの堀潤さんは、政治は迎合してみせることで、大衆をコントロールしようとしているのではないかと指摘する。AERA 2020年7月27日号から。

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西田:政府や省庁もSNSを使った情報発信を行いましたが、うまく機能していたようには見えません。たとえば、内閣官房の新型コロナウイルス感染症対策推進室のアカウントが、3月初旬、ワイドショー番組に対して名指しで間違いを指摘して反論しました。ほぼ同じタイミングで自民党広報のアカウントも同様の投稿をし、報道の萎縮を懸念する声があがりました。中長期で専門家を育て、ネット上のコミュニケーションにどう対策するかを考えてこなかったツケなのではないかと思っています。

堀:政府がSNSというパブリックな場で報道に注文をつけるということ自体は、僕は大歓迎です。報道サイドも監視されるべきです。言論には言論で対抗し、両者の打ち合いを視聴者といった第三者が見る状況を作ることが大切です。そのなかで、情報は磨かれていきます。

西田:同意です。報道と政府広報が切磋琢磨(せっさたくま)していくのが好ましいですよね。両者は緊張関係にあるべきですが、それはなく不信感だけがあるのが日本の現状です。発表する政治側も、報道するメディアも、受け取る人々も、互いに根拠なく信頼できないと思っている。不健全な情報環境です。

堀:相互不信や疑心暗鬼は、いろいろなところで判断やアクションを鈍らせますよね。

西田:近年はここに「わかりやすさ」の問題が加わりました。人がわかりやすいものに脊髄反射的反応をするため、政治やメディアといった発信側は、わかりやすいコンテンツしか作らなくなる。さらに映像化などの“イメージ化”も進み、受け手は一度立ち止まって考えるということをますますしなくなります。そのような人々の振る舞いに、政治が過剰適合し、「耳を傾けすぎる政府」になったというのが僕の見立てです。

堀:なるほど。

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