AERA 2020年6月15日号より
AERA 2020年6月15日号より

 コロナ禍で感染の不安を抱えながらも働く妊婦たち。休職や自宅勤務を希望していても、人手不足から働かざるを得ない人や、職場の相談しづらい空気のために言い出せずにいる人、さらには医師からの“ブロック”にあう人までいるという。AERA 2020年6月15日号では、コロナ禍で働く妊婦たちが直面する現実を取材した。

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 大阪府内の公立学校で教員をしている30代の女性は5月、厚生労働省から妊娠中の労働者に関する新たな通達が出されたのを知り、かかりつけの産婦人科医院を訪れた。仕事を休めるよう、医師に学校への指導事項を書いてもらおうと思ったのだ。

 ひどいつわりや切迫流産、切迫早産などの恐れがある場合、医師が母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)に必要な「指導」を記し、内容を事業主に守らせる仕組みがある。厚労省は5月7日、新たな指針を追加。新型コロナウイルスの感染への不安が妊娠中の母体や胎児に影響を与える恐れがある場合は、医師の指導があれば、出勤の制限などの必要な措置を事業主側に義務づけられるようになったからだ。

 だが、対応した男性医師は女性にこう言ったという。

「切迫流産や切迫早産の症状もないのに(指導は)書けない。これで妊婦が全員働かなくなったら社会はどうなるのか」

 女性は医師から「指導」を書いてもらえなかったため、その後も学校への出勤を続ける。

「感染への不安があるのだし、厚労省のリーフレットに載っている例文通り書いてくれたらいいのになって思いました。学校再開後は、子どもたちのことが一番になって自分が後回しになってしまうし、教室や職員室では、狭い空間の中にたくさんの人が集まる。給食も始まると思うと不安です」

 厚労省が新たな指針を追加した後も、多くの働く妊婦が、感染への不安を抱きながら出勤し続けている。

 日本産科婦人科学会が4月7日に発表した妊婦向けの呼びかけによると、妊娠中に新型コロナ感染症にかかる率は一般の人と同じで、重症化する率も一般の人と同じかむしろ低い値が報告されているというが、現実は、感染した場合は胎児への影響を考えると使える薬やできる検査も制限され、出産できる医療機関も限られてしまう。また、未知の感染症で、解明されていない部分も多く、胎児や母体にどんなリスクがあるのかわからない怖さがあり、多くの妊婦が感染への不安を口にする。

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