心から楽しいと思えるものを動画にしたい。「だからYouTubeだけは誰にも触らせません」(撮影/今村拓馬)
心から楽しいと思えるものを動画にしたい。「だからYouTubeだけは誰にも触らせません」(撮影/今村拓馬)
言葉のセンスが独特とよく言われるが、本人は完全に無意識。「逆に語彙力がないんだと思う。知ってるこの単語とこの単語を合体させて発射させたら、とりあえずニュアンスは伝わるかもっていう感じでいつも出荷してる」(撮影/今村拓馬)
言葉のセンスが独特とよく言われるが、本人は完全に無意識。「逆に語彙力がないんだと思う。知ってるこの単語とこの単語を合体させて発射させたら、とりあえずニュアンスは伝わるかもっていう感じでいつも出荷してる」(撮影/今村拓馬)

 ポジティブもネガティブも全部ひっくるめて動画にしてさらけ出す。動画を観た後は、不思議と心が幸福感に満ちている。それはさながら10分間の魔法だ。常識や偏見から解き放たれた言葉の数々が、現実を歩く重みを少しだけ軽くしてくれる。天性のエンターテイナーkemioさんが生み出す動画は、世代や性別の分断線を越えて幅広い支持を集めている。

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 初めて動画を観たときの衝撃が忘れられない。

「ボーンッ!! 地球上の皆さんこんにちは! k、e、m、i、o、kemioでぇーっす!」

 のっけからハイテンションすぎる自己紹介。そこからニッキー・ブロンスキーが歌う「Good Morning Baltimore」のジングルが流れ、画面が切り替わった瞬間に怒濤の早口でまくしたてる。

「オーケーということで皆! 先週1週間は素敵なウィークを過ごせたかでしょうか? 先週動画をボーンってブチ上げたらコメント欄で『え、平成最後の動画がこれですか? これで平成最後の動画ですか?』ってコメントをたくさんの方にいただいて私すっかり忘れてたんだけど、なんかそんなに皆さんが言ってくださるんだったらと思って平成最後になんか平成最後っていう感じの平成最後を作ろうと思って平成最後、します!」(動画「メルプチ盛れなさすぎてエモい」より)

 ここまでわずか33秒。これはラップか、はたまた現代詩か。文法、無視。意味、無視。なのに、なぜか心地良い。自由奔放に叩き込まれる言葉、まるで音楽のような小気味よいリズム、そして予想不可能な展開が独特のグルーヴ感を生み出す。

 kemio(24)のYouTubeチャンネルにアップされた動画は、料理、メイク、最近買った物の紹介、ショックだったこと、疑問に思ったことなど、日々の生活の話題が中心だ。ほかの人気ユーチューバーの高額商品レビューやゲーム実況、大食い動画などの企画と比べると牧歌的でさえある。にもかかわらずコンスタントに50万~100万回再生を叩き出し、コメント欄には「笑った」「元気もらえた」といった声が数千件も並ぶ。

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累計フォロワー数は430万人超