新型コロナウイルス感染で、医療崩壊は起きないのか、心配をしている人も多いだろう。海外では特に深刻な事態も相次いだ。小中学生向けニュース月刊誌「ジュニアエラ」6月号では、問題の背景を探った。

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 新型コロナウイルスに感染して亡くなる人が世界で急増した。多くの人が亡くなった米国やイタリアなどで起きた医療崩壊は、日本でいつ起きてもおかしくない、という状況が続いた。

 小池百合子・東京都知事が「感染爆発の重大局面」と訴え、外出自粛を呼びかけた週末から一夜明けた3月30日。国立国際医療研究センター(東京都新宿区)には40人を超える患者が新型コロナウイルスの検査を求めて詰めかけた。

「受け入れ能力を超える対応を続けながら、何とか医療を回している状況です」

 最前線で治療にあたる大曲貴夫・国際感染症センター長は切迫感を募らせていた。

 全国の感染者数はその後も増え続け、国は4月7日、7都府県に緊急事態宣言を発令。イタリアやスペイン、米国等で起きた「医療崩壊」の危機が日本にも迫った。

 特定の地域で感染者が急増すると、病棟や集中治療室(ICU)で収容しきれなくなり、重症患者に必要な吸入用の酸素や人工呼吸器も足りなくなる。医療スタッフに感染が広がれば、病院の機能も麻痺してしまう─そんな事態が、高度な医療先進国でなぜ起きるのか。

 世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は「高所得国の医療は無駄なく効率的だが、緊急時に対応の幅を広げるのは難しい」と指摘した。これは日本の病院にも当てはまると警鐘を鳴らすのは、岡山大学大学院の津田敏秀教授(環境疫学)だ。

「効率的な運用を維持できるのは患者数がほぼ一定のときだけです。平時の入院患者数を見込めるから、その範囲内で病床などの医療資源をフル稼働させる効率運用が日本でも続けられているのです。逆に言えば、効率化が進んでいる病院ほど非常時の患者の急増への対応は困難です」

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渡辺豪
『AERA』記者 渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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