笹生那実(さそう・なみ)/1955年、神奈川県生まれ。高3の時「笹尾なおこ」名でデビュー。その後、アシスタントをしながら作品を発表。30代で漫画家引退後、40代からは同人誌を作り、その活動は20年にも及ぶ(撮影/加藤夏子)
笹生那実(さそう・なみ)/1955年、神奈川県生まれ。高3の時「笹尾なおこ」名でデビュー。その後、アシスタントをしながら作品を発表。30代で漫画家引退後、40代からは同人誌を作り、その活動は20年にも及ぶ(撮影/加藤夏子)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。

 笹生那実さんによる『薔薇はシュラバで生まれる~70年代少女漫画 アシスタント奮闘記』は、少女漫画のレジェンドたちのもとでの貴重なアシスタント経験、漫画家の素顔を綴った、唯一無二のコミックエッセー。少女漫画の黄金期を作った、名作の舞台裏でのエピソードも満載の一冊だ。著者である笹生さんに、同著に込めた思いを聞いた。

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 シュラバ(修羅場)とは、締め切り前の漫画家とアシスタントが昼も夜もなく、作画作業に追われる現場のこと。

 少女漫画の黄金時代と呼ばれる1970~80年代、笹生那実さん(64)は綺羅星のごとき漫画家たちのアシスタントを経験してきた。本書では美内すずえ、樹村みのり、山岸凉子、くらもちふさこ──といった、レジェンドたちとの交流や名作の背景が意外なエピソードとともに語られる。

「錚々たる漫画家さんが少女漫画の枠を広げる作品を次々に描いていた時期に、アシスタントとして立ち会うことができました。当時は締め切り前に数日、徹夜が続くのは当たり前、アシスタントが泊まり込んで仕上げるんです。若かったからできたんだな、と思います」

 近年はパソコンで描き、仕上げはアシスタントとデジタルデータのやりとりで完成させる漫画家も増えている。

 だが笹生さんがアシスタントをしていた時代は、スクリーントーンと呼ばれる模様シートの種類も少なく、ほとんどを手描きで仕上げるしかなかった。

「締め切り前に時間が足りなくなるのは、先生方がギリギリまでネームに時間をかけていたからです。私がアシスタントをしていたのは、『○○でなければいけない』という社会の枠組みを壊すような少女漫画が生まれていた頃。みなさん、ギリギリまでストーリーやセリフを考えていました」

 少女漫画の現場にいたからこそ描けた、貴重なエピソードが次々と登場する。

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