感染の危険があるのは海軍だけではない。陸軍や海兵隊が戦車、装甲車やトラック、ヘリコプターなどで演習し、テントや塹壕で生活すれば、「3密」は避けられない。歩兵部隊でも、機関銃や対戦車ミサイル、迫撃砲など複数の兵で使う武器が多く、「密接」が付きものだ。

 空軍や海軍航空隊の場合、戦闘機の大部分は単座だが、輸送機や大型レーダーを付けた早期警戒機、空中給油機など多くの航空機には多数の乗員が必要で、整備も数人がかりで行う。新型コロナに対する予防、治療の方法が確立するまで、どの国でも演習や訓練は感染を恐れて低調になるとみられる。

 さらに重大な問題になるのが、財政難だ。米国は2兆2千億ドル(約240兆円)の景気刺激策を打ち出し、さらに4800億ドル(約52兆円)の追加も決めた。米国の今年度の国防費は国防総省以外の支出を含め約7300億ドルで、2兆6800億ドルはその3年半分を超える規模だ。

 日本の緊急経済対策費は108.2兆円。このうち政府支出(39.5兆円)だけでも、今年度の防衛費(5.3兆円)の7年分にあたる。IMF(国際通貨基金)は今年の米国のGDPは昨年より5.9%減、日本は5.2%減、ユーロ圏は7.5%減と予想している。中国は1.2%増の予想だが、前年の6.1%増からみると大幅な下落だ。さらなる国債の乱発による将来の財政逼迫は避けがたく、各国とも軍事費を縮小せざるを得ない。

 中国は過去20年間、国防費をGDPの約1.3%に保ってきた。GDPの急増に伴い国防費も約10倍になったが、その拡大にもブレーキがかかりそうだ。

 どの国も世界的な不況と財政難の結果、装備の更新や新規開発の停滞、訓練や海外派兵など活動経費の削減に向かう可能性が高い。感染拡大を警戒して演習なども控えめになれば、軍備競争が停止し、少なくとも一時的には、「コロナ軍縮」の現象が生じることになりそうだ。(軍事ジャーナリスト・田岡俊次)

AERA 2020年5月4日号-11日号より抜粋