経験から学んだものもあるが、実は秘密がある。

「4年前から瞑想を始めたんです。毎日1時間、自分の呼吸や状態を観察する。例えば自分の中に『怒り』があると気づいたら、それを受け入れ、冷静に見つめる。すると次第に怒りが消えていくんです」

 3・11以降、ツイッターなどで社会的な発言を続けてきたが、そこにも変化が起こった。

「以前は怒りを制御しないままに発言をしていました。しかも誰かを責めたり、きつい言い方をするほどリツイートされて、やっぱり快感なんですよ(笑)。でもそれではダメだと反省しました。そういう感情は人に破壊的な影響を与えてしまう。発言は続けますが、怒りに駆動されないように心がけています」

 映画もそうありたいと願う。

「目を見開き、よく聞き、さまざまなことに敏感になる。でも、そこで気づいたことで心を乱すのではなく、それを受容しながら行動する。そうした姿勢が映画にも反映していけばと思っています」

■もう1本おすすめDVD「精神」

ベルリン国際映画祭を始め世界で絶賛された想田監督の「精神」(08年)。タブーとされていた精神科にカメラを向け、素顔の患者たちの様子を映し出し、センセーションを巻き起こした。

 岡山市にある精神科診療所「こらーる岡山」。民家を改装したここに、山本昌知医師を頼る患者たちが訪れる。「病気でなく人を看る」をモットーに山本医師は彼らにじっくり向き合い、話を聞く。

「私には何もない。死にたい」と泣きながら話す女性。衝撃的な過去を淡々と話す女性。タバコをくゆらせながら、饒舌に深遠なることを語る男性──想田監督のカメラもまた彼らに向き合い、話に耳を傾ける。そのうちに思うはずだ。彼らを「自分とは違う」と思えるだろうか? 健常者と彼らの境界は? そもそも、そんなもの存在するのか?

「精神」の製作にも妻・柏木規与子さんの存在は欠かせなかった。監督は在宅支援のNPO法人を立ち上げて活動する柏木さんの母・廣子さんを通じて「こらーる」を知り、撮影を始めたのだ。柏木さんの両親は「Peace」(10年)の主人公でもある。人との世を見つめた名作なので、こちらもおすすめだ。

◎「精神」
発売元:東風 販売元:紀伊國屋書店
価格3800円+税/DVD発売中

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA  2020年5月4日-11日号