同じころ、スペイン政府もマスク5億5千万枚を含む4億3200万ユーロ分の医療品調達の契約を結んだ。

 これまで新型コロナ対策でマスクは「不要」という見解を示していた米国疾病対策センター(CDC)も4月に入って着用を勧める指針を発表。トランプ大統領は医療用高性能マスク「N95」を製造している米3M社に、国防生産法に基づいて国内の医療機関への優先的な供給とカナダや中南米などへの「不当な輸出」の停止を命令した。

 米国は、中国などで生産されたフランスやドイツなど他国向けのマスクを発送直前に「横取り」したなどと複数の欧州メディアから報じられた。米国は市場価格を大幅に上回る値段を払い、既に契約を結んだ欧州の国々から奪い取るように買い占めており、世界のマスク市場が無法化しつつあるという。トランプ大統領はこの件について「我々にはマスクが必要だ。他国に渡したくない」と追認するような発言をして、混乱に拍車をかけている。

 そして日本。菅義偉官房長官が3月のマスク供給量を6億枚にし、4月はさらに1億枚上積みして7億枚にすると発表したが、これらは達成できているのだろうか。経済産業省と合同でマスク調達にあたっている厚生労働省の担当者はこう語る。

「もともと毎月のマスク供給量は3億5千万枚。このうち2億6千万枚を輸入に頼っていて、そのほとんどが中国産でした。これをカバーするために国内メーカーに増産を依頼し、3月中に6億枚を供給できました。4月も目標を達成できそうです。医療機関に対しては1500万枚を買い上げて順次配布し、4月以降も1500万枚以上を確保できる見込みです。介護施設や障害者施設等には何度でも再利用可能な布製のマスク2千万枚を順次配布しています」

 では、なぜ足りないのか。実は「毎月3億5千万枚」は年間の平均で、花粉症のため需要がピークになる2月の供給量は例年、5億8千万枚に達する。6億枚はそれをわずかに上回るにすぎない。新型コロナ対策で花粉症以外の人もこぞってマスクを着け、さらに一定量を確保しておきたいという消費者心理を考えると、いわば「例年並み」の供給で品薄が解消されるはずもないのだ。

 両省の合同チームでも当初予算の予備費を用いて民間ルートでの調達に乗り出しているというが、成果は芳しくない。その理由について、大田さんは自身の経験を教えてくれた。

 大田さんは3月中旬、関西地方の医療機関経営者から「政府が一般用のマスク1億枚を単価50円以下で購入する計画があるので協力してほしい」と求められた。政府側のバイヤーを務める大手総合商社OBを紹介され、このバイヤーに、中国から大量にマスクを買い付けている実業家を紹介した。1枚45円で卸せるということでサンプルを持参すると、バイヤーは二つ返事でOKしたという。

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